西村京太郎が陸軍エリート養成学校で見たカルト的精神主義「日本人は戦争に向いていない」

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『十五歳の戦争 陸軍幼年学校「最後の生徒」』(集英社)

 ミサイル発射や核実験により北朝鮮をめぐる緊張が高まっている。国際社会はこの状況に対し対話による解決を呼びかけているのに対し、安倍首相は勇ましい発言で危機を煽り、好戦的な世論を醸成している。

 そんななか、こんな印象的な言葉を記した本が話題になっている。

〈日本人は戦争に向いていない〉

 ミサイル発射や核実験により北朝鮮をめぐる緊張が高まっている。国際社会はこの状況に対し対話による解決を呼びかけているのに対し、安倍首相は勇ましい発言で危機を煽り、好戦的な世論を醸成している。

 そんななか、こんな印象的な言葉を記した本が話題になっている。

〈日本人は戦争に向いていない〉

 この言葉の主は、ミステリー作家の西村京太郎氏。彼は先日出版した『十五歳の戦争 陸軍幼年学校「最後の生徒」』(集英社)のなかで、このような言葉を記している。

 戦中世代として戦争反対を訴える文化人は数多いが、1930年生まれの西村氏は、そのなかでも少し特殊な経歴の持ち主として知られている。

 西村氏は1945年4月、八王子にあった東京陸軍幼年学校に入学。終戦によりそのコースを歩むことはなかったが、もしも戦争が続いていたら3年間幼年学校に通った末、陸軍士官学校、陸軍大学校へと進む軍人のエリートコースを進んでいただろう。幼年学校は、東京、仙台、名古屋、大阪、広島、熊本の6校があり、その合格倍率は100倍以上だったというから相当に成績が優秀な子どもだったということがわかる。

 そんな彼にとって戦争とはなんだったのか? そして、なぜ〈日本人は戦争に向いていない〉という言葉にいたったのか?

 西村氏が少年時代に目の当たりにした戦争とは、「生きて虜囚の辱めを受けず」の文言がある「戦陣訓」をはじめとした、「宗教」と喝破してもいいほどの行き過ぎた精神主義・根性主義だった。

 その精神主義が兵士のみならず多くの民間人を殺したことはご存知の通りだが、西村氏の身近にも、この理不尽な精神主義に殺された人がいた。

 それは、幼年学校で同じ学年だった及川君という生徒である。彼とはクラスも違っていれば、言葉を交わしたこともなかったというが、いまでもその名前を忘れることができないという。それは、彼の死に方が怒りを覚えずにはいられないものだったからだ。

陸軍幼年学校で西村京太郎が目の当たりにした同級生の死

 彼が亡くなったのは、終戦間近の8月2日。この日、B29による爆撃が幼年学校を襲った。この空襲で7 人の生徒と3人の教師が亡くなったが、そのうち西村氏と同じ学年で亡くなったのは及川君ひとりだったという。

 空襲が始まると、生徒たちは防空壕に避難。西村氏は収容人数いっぱいの防空壕に入ることができなかったため近くの神社に逃げ込んで難を逃れたが、及川君は逃げ後れて犠牲になってしまった。及川君が逃げ後れた理由、それは旧日本軍が押し付けてきたカルト的な精神主義のせいだった。

〈及川は、今、靖国神社に祀られていることからもわかるように、陸軍幼年学校の生徒は、兵士だった。だから、私たちは、入校と同時に短剣を渡された。
「この短剣は、天皇陛下から頂いたものであるから、常に身につけていなければいけない」
 と、繰り返し、教えられた。
 だから、私も千葉も、短剣を腰につけて、雄健神社に逃げた。
 ところが、及川は、短剣を忘れて、生徒舎を飛び出してしまったのだ。気がついた及川は、短剣を取りに、炎上している生徒舎に引き返して、死んだ。〉(前掲『十五歳の戦争』)

 短剣など所詮は物であり、いくらでもつくり直しがきくわけで、そんなものは無視して逃げればいいのだが、及川君はそのような行動はとれなかった。理不尽な精神主義が強制されていたからだ。

 そしてまた、その及川君の死に対する大人の反応が人間としてどうかと思うものだった。ただ、このように人間の命を軽んじる態度こそが、旧日本軍の本質である。

〈その及川の行動を、校長は絶讃した。
「及川生徒は、死を覚悟して、天皇陛下から頂いた短剣を求めて燃えている生徒舎に引き返した。これは、名誉ある戦死である」
 だから、及川は、靖国神社に祀られた。
 反対に、学校の外に逃げた生徒は、校長から叱責された。「学校の外まで逃げるのは、兵士が戦線を離脱するのと同じだ」
 と。今なら、校長は何というだろうか?〉(前掲『十五歳の戦争』)

 異常な精神主義に日本中が覆われたのを目の当たりにした経験をもつ人は、この国が総力戦に巻き込まれたときの恐ろしさを身にしみてわかっている。

 西村氏は、安保法制が強行成立された2015年夏、同じく陸軍幼年学校出身で戦後は作家として生きたという共通点をもつ三好徹氏と「小説すばる」(集英社)2015年9月号 で対談している。

太平洋戦争で浮き彫りになった日本人の体質は3.11でも再現されたと西村京太郎は語る

 そのなかで三好氏は「安倍首相の強引なやり方はいかがなものか」と、安保法制における国会議論の軽視を始めとした強引なやり方を批判。また、安倍首相がこの国を戦争ができる国にしたがっていることについても、「戦争の経験のない人間ほど勇ましいことを言いたがる」と喝破した。

 西村氏はそれを受け「日本人というものは戦争に向いていないんだと思う」「だから、戦争には触れても近づいてもいけない」と語る。それは、安易に命をかけ、負けるとわかっていても、死ぬとわかっていても戦いをやめられないからだという。そして、ときに美徳とすらされる、自ら命を差し出す行為を「命がとても軽い」と喝破した。そのように語っているとき、おそらく西村氏の頭のなかには、たかだか短刀のために死んでいった及川君を思う気持ち、そして、それを「名誉の戦死」などと言った幼年学校時代の校長への怒りがあったのではないだろうか? 前述「小説すばる」のなかで西村氏はこのように語っている。

「今年、戦後七十年ということもあって、太平洋戦争の資料や記事や本を読む機会が増えているんですけど、読めば読むほど、「日本人は戦争が下手だな」と思うんですよ。負けることがわかっているのに戦うことをやめられない。そして自分から命を差し出して死んでいっちゃう。命がとても軽い。だめでしょ、こんなの」

 これは「過ぎ去った過去の出来事」ではない。現在にも通じるものでもあり、だからこそ戦争はしてはいけないのだと西村氏は語る。2017年8月10日放送『報道ステーション』(テレビ朝日)で西村氏はこのような言葉を残している。

「「死んでなんとか勝つぞ」とかね、すると、なんとなくおさまりがいいんですよね。日本人ってそういうところがあるんじゃないかと思うんだよね。だから、「死んだ気でやるぞ」とか言われると、それに反対できなくなっちゃう。本当は反対しなくちゃいけないんだけどね。戦争はしないほうがいい。戦争するとやっぱり日本人って行っちゃうんですよね、そっちへね。「みんなが死んでるのに俺だけ生きてるわけにはいかない」とか言ってね」

 なぜ、戦中に浮き彫りになった日本の体質が過去のものではないと断言するのか。それは、つい最近も、日本人の甘えや責任逃れの本質が変わっていないと痛感させる出来事があったからだ。前掲『十五歳の戦争』はこのような文章で締められている。

〈戦後は、現在まで戦争はなかったが、原発事故があった。その時も、虚偽の報告を重ね、責任を取ろうとせず、ひたすら組織を守ることに、汲々としていた。これではとても、現代戦を戦うのは、無理だろう。良くいえば、日本人は、平和に向いているのである〉

 原発事故の収束もできないまま、事故などなかったかのようになし崩し的に再稼働を進める。72年前の戦争の反省を忘れ、米朝の戦争に日本を巻き込ませようとする。これ以上、安倍政権の横暴を許した先に待っているものは何か。安倍首相の好戦的な発言に煽られることなく、異を唱え続けなければならない。

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