「売れてる本」の取扱説明書③『英語の害毒』(永井忠孝)『英語化は愚民化』(施光恒)

英語が日本をダメにする?“英語化批判本”が語るのはグローバリズム批判か排外主義か

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 英語教育を論じると「これからは英語が必要な時代なんだから」というシンプルな主張が最たる力を持ち続けるが、そのシンプルさで全てを振り払ってしまうべきではない。著者は「おわりに」で、この強いタイトル付けによって生じるであろう誤解を先読みするかのように、「日本社会を英語化する政策を批判しても英語教育を軽視しているわけではない。語学が堪能な人々の活躍を軽視するものでもない」と、英語を蔑ろにするわけではない姿勢を強調する。「国際競争力」「グローバル」と言ったフレーズに頼りながら急かされていく施策に対して、民主主義社会では「人々がそれぞれ、自分が自国の政治の主人公であるという認識を持つことが重要」と指摘していく。アメリカにチヤホヤされたことを何よりの成功体験とし、国内での議論を「早く質問しろよ!」「私が総理大臣なんですから」と手早く切り上げようとする政治に直面している現在では、この主張に強く頷くことになる。

 英語教育の有用性について議論すると、○×どちらの答えを持っていても、すっかり思考が停止し、互いの無理解を突つくだけになってしまう。具体的に言えば、「英語なしではビジネスの最先端では戦い抜けない」に対して「夏目漱石も福沢諭吉も英語の公用語化を危惧していた」をぶつけても建設的な議論は起こりにくいのだ。強制力のある政策には注意を向けつつ、あくまでも個々人で英語との距離感をはかっていくしかない。あらかじめ排しておくべき議論があるとするならば、自分の主張を通そうとするあまりにいたずらに暴走する議論だろう。

 永井忠孝『英語の害毒』(新潮新書)は、TPPが英語の公用語化を推し進めると懸念するなど『英語化は愚民化』との共通点も多いのだが、「英語ばかりを学ぶことは、かたよった世界観をもつことにもつながる」とするなど、やや乱暴な記載が目立つ。中国の国力増強により、中国人が英語を軽視し、「英語教育を軽減または停止することも考えられなくはない」と予測、そのことを理由に「英語が国際語だという“物語”」の危うさを指摘する。高校生に留学目的を問うアンケートで日本が中国・韓国よりも「語学の習得」のパーセントが高いこと(日本70.1%・中国43.3%・韓国42.9%/日本青少年研究所『高校生の生活意識と留学に関する調査報告書』2011年)を理由に「中国人・韓国人と比べても、日本人はアメリカにとって好都合な英語観をもっている」とし、これが「戦後の英語教育の帰結」だとするのは強引に思える。

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