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河井夫妻逮捕でも安倍首相会見は追及なし! 唯一の質問は幹事社フジの「1億5000万円は買収に使われてないということでいいか」
首相官邸HPより
現職の国会議員が2人同時に、しかも前の法務大臣が逮捕される──。すでに大きく報じられているとおり、本日、河井克行・案里氏が公選法違反容疑で逮捕された。国会議員の夫婦が逮捕されることも法相経験者が逮捕されることも、どちらも憲政史上初という異常事態であり、当然ながら、案里氏を自民党の公認候補者に、そして克行氏をよりにもよって法を司る大臣に任命した安倍首相の責任が大きく問われている。
そんななか、本日18時から通常国会閉会にともなう総理会見が開催。ここで安倍首相は自身の重大な責任についてどう語るのか、必然的に注目が集まっていた。
そして会見冒頭、安倍首相はこう口火を切った。
「本日、我が党所属であった現職国会議員が逮捕されたことについては、大変遺憾であります。かつて法務大臣に任命した者として、その責任を痛感しております。国民のみなさまに深くお詫び申し上げます。この機に国民のみなさまの厳しい眼差しをしっかりと受け止め、われわれ国会議員はあらためて自ら襟を正さなければならないと考えております」
河井夫妻が自民党は離党したのは昨日のことなのに「我が党所属であった現職国会議員」などと“いまは無関係”とばかりに強調した上、河井のカの字も出さなかった安倍首相。しかも、逮捕前から言っていた「法相任命者として責任を痛感」という台詞をこの期に及んでも繰り返し、「われわれ国会議員はあらためて自ら襟を正さなければならない」と“国会議員全体の問題”に話をすり替えたのだ。
しかも、絶句したのはこのあと。安倍首相は「襟を正さなければならない」と言うと、河井夫妻の逮捕についての受け止めについて語りはじめて1分も経たないうちにさっさと新型コロナの話に話題を移し、あとは「クラスター対策に磨きをかけてゆく」だの「ポストコロナの新しい日本の建設に着手すべきは、いまやるしかない」だのと、威勢がいいだけのいつもの総理会見の調子に戻ってしまったのだ。ちなみに、この会見は前述したように通常国会閉会にともなう会見だというのに、今国会であれだけ大きな問題となった検察庁法改正案を廃案にしたことついても、自ら一言も言及しなかった。
繰り返すが、今回の河井夫妻の逮捕は憲政史上かつてない大事件だ。そして、河井案里氏を参院選に擁立したのはほかでもない安倍首相であり、買収資金の原資となった可能性が高い自民党からの1億5000万円も、安倍首相の後ろ盾があったからと指摘されている。さらに、案里候補の選挙戦には、安倍首相の地元事務所秘書4人が指南役として投入されていた。これだけの疑惑があるにもかかわらず、逮捕された直後の会見で自ら発した言葉がたったこれだけ……。無責任にもほどがあるだろう。
だが、これは演説会ではなく、記者会見だ。きっと質疑応答で厳しい追及があるはず──。そう考え、本サイトは固唾を呑んで会見を見守ったのだが、ここから先は、さらに信じられないような光景が繰り広げられたのだ。
まず、最初に幹事社2社のひとつであるフジテレビの記者が質問したのだが、それはこういうものだった。
「まず、あの総理、冒頭言及がありました河井夫妻が逮捕されたことについて、『責任を痛感している』と述べられましたが、総理・総裁として具体的にどういった責任を痛感されているのか、ということと、自民党から振り込まれた1億5000万円の一部が買収資金に使われたことはないということでいいのか、お伺いします」
フジテレビのアシスト質問につづき、産経はこの期に及んで「憲法改正」だけを質問
いったいこのフジテレビ記者の質問はなんなのか。
「『責任』と言うがそれは具体的にどういう責任なのか」という質問は、まあ当然のものだ。だが、そのあと「1億5000万円は買収資金に使われたことはないということでいいのか」って、どうして“使われていない”という前提の質問なのか。
しかも、このフジの記者はつづけて、東京五輪の実施についてやワクチンの問題、さらには「今秋に衆院解散に踏み切るという噂があるが総選挙の実施は可能と考えるか」など、河井夫妻逮捕の話題だけではなくいくつも質問を投げかけたのだ。こんな質問では、話題が分散されて掘り下げた回答など得られないのは目に見えている。
実際、安倍首相はこのフジによるアシストとしか思えない質問に対し、会見冒頭に述べた台詞をそのまま繰り返した上で、こう述べた。
「選挙は民主主義の基本でありますから、そこに疑いの目が注がれることはあってはならないと考えております。自民党総裁として、自民党において、より一層、襟を正し、そして国民に対する説明責任も果たしていかなければならないと考えております。ま、それ以上につきましては、捜査中の個別の事件にかんすることでありまして、詳細なコメントは控えたいと思いますが、自民党の政治資金につきましては、昨日、二階幹事長より『党本部では公認会計士が厳格な基準に照らして事後的に各支部の支出をチェックしているところであり、巷間言われているような使途に使うことができないことは当然であります』という説明をおこなわれたと、こういうふうに承知しております」
「説明責任を果たす」と言ったそばから「詳細なコメントは控える」と言い出すという笑えないコントを繰り広げたあとは、二階俊博幹事長のコメントを繰り返すだけ。しかも、安倍首相はこれだけ語ると、「そして東京オリンピック・パラリンピックについてでありますが……」と、案の定、東京五輪の質問の応答に移ってしまったのである。
この、安倍首相がもっともらしく語った二階幹事長のコメントの引用だが、二階幹事長はこのとき「合計1億5000万円は支部の立ち上げに伴う党勢拡大のための広報誌を配布した費用に充てられたと報告を受けている」と語っていた。だが、これには自民党内からも「そんなもので1億5000万円もかからない」というツッコミが噴出しているような眉唾モノの説明だ。ようするに、二階幹事長の説明になっていない説明を安倍首相は持ち出したのである。
しかし、当然ながら、これからの質問でどこかの記者がこの点を突っ込んで、河井夫妻の逮捕問題について掘り下げるだろう──。そう考えていたのだが、結論から言うと、このあと、河井夫妻の逮捕について質問はまったく出なかったのである。
フジの記者のあと、幹事社のもう1社である産経新聞の記者が質問に立ったが、その内容は「憲法改正」。無論、安倍首相は水を得た魚のように、「(憲法改正に)反対なのか賛成なのか、どういう考えを持っているのか、それをまさに国民のみなさんは私は見たいんだろうと、聞きたいんだろうと思います」などと野党批判を織り交ぜて長々と“演説”した。
NHK、テレ朝、日経、ラジオ日本、日テレ、読売も河井逮捕に触れずどうでもいい質問
その後に指名されたNHK記者の質問は「拉致問題について」。次のテレビ朝日記者は「配備計画停止となったイージス・アショアの予算を宇宙やサイバー、電磁波といった戦略構築に向ける考えはあるか」と「イージス・アショアや給付金、国家公務員法改正案の見送りなど、ブレーキをかけることが増えている原因は」。5社目の日本経済新聞記者は「海外とのビジネス往来について」。つづいて、ラジオ日本記者は「残り1年3カ月となった総裁任期についての率直な心境」、日本テレビ記者は「ポスト安倍としてふさわしい候補は」、8社目の読売新聞記者は「安保戦略について。自民党内では敵地攻撃能力の保有を求める声があるがどう考えているか」……。
ここまできて、司会者である長谷川榮一・内閣広報官が「外交日程があるので最後になるかもしれません」と言い出す。長谷川内閣広報官といえば、経産省出身で例の電通再委託問題で外注先となっているイベント会社「テー・オー・ダブリュー」の元顧問であり、なんなら記者は長谷川内閣広報官にもこの件について質問をしてほしいくらいだったが、この長谷川氏の会見打ち切り宣言に大きなブーイングも出ず、当てられた西日本新聞の記者の質問は、「財政不安について」と「プライマリーバランスの2025年度黒字化目標は維持されるのか」というものだった。
そして、この質問に安倍首相が答えたあと、長谷川内閣広報官が会見を打ち切ろうとし、挙手している記者に「広報室に書面で質問を提出」するよう呼びかけはじめる。「もうちょっと時間をとって……」という声もあがったが、長谷川内閣広報官は「だいたい1時間弱ということなんですけども」「外交日程がありますので、ちょっときょうはそういうことでご理解」などと押し切ろうとする。するとここで「外国メディアも」と声があがり、長谷川内閣広報官は「バランスを考えて私共やっておりますので」と言ったものの、安倍首相が「外国メディア」と口にし長谷川内閣広報官に目配せしたことから、最後にイギリスの軍事週刊誌の記者が質問に立つことに。質問は「イージス・アショアは停止なのか中止なのか」ということと、北朝鮮と韓国の関係悪化にかんして「在韓日本人の救出などについてのプランはあるのか」というもので、安倍首相が質問に答えると、会見は打ち切られてしまった。
何度でも繰り返すが、この会見のわずか数時間前に、戦後初となるような国会議員の逮捕劇がおこなわれたのだ。にもかかわらず、その問題についての質問が記者から出たのは、たったの1回。しかも、それは事前に安倍首相に報告がなされている幹事社の代表質問だ。
前述したように広報誌の印刷・配布だけで1億5000万円もかからないという問題や、誰がそれだけの巨額を投じることを決めたのか、河井氏を法相に任命した理由、河井氏と安倍首相の関係、さらに案里氏の選挙に安倍事務所の秘書を投入したのはどうしてだったのか、そこで秘書はどういう立ち回りをしたのか……質問で追及するべき事柄は山のようにあるというのに、指名された記者は誰ひとり河井夫妻逮捕にかんする質問をぶつけなかったのだ。
いや、質問に当てられなかった記者たちのなかには、こうした質問をしたかった記者もいたはずだろう。長谷川内閣広報官は図らずも「バランスを考えて私共やっておりますので」と言っていたが、ようするに厳しい質問しない記者を厳選した、ということではないのか。
「責任を痛感」と言いながらその「責任」を果たさない安倍首相と、政権を揺るがす大事件が大きく動いた歴史的な日にそのことに触れない記者たち……。この権力とメディアによる“共犯関係”があるかぎり、政治家の不正を正すことなど、この国では不可能だ。腐りきっている、と言うほかないだろう。
(水井多賀子)
最終更新:2020.06.18 10:59
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