フジも見習え!”予算なし人気芸能人なし”テレ東の自虐的企画力

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「答えは簡単。テレビ東京がしょぼいからだと思います。ようは、金も力も無かったから生まれた制作方式なのです」

 金がなければ有名タレントはキャスティングできない。一方、ほかの局では華のあるタレントがわんさと出演している。そんななかで汐留や六本木、お台場、赤坂と戦うにはどうすればいいのか──そこでテレ東が選んだのが“手作り”路線だった。タレントに出演してもらうことを「あえてあきらめ」、ディレクターが台本を書き、カメラを回す。そうすれば「バラエティ番組でも長期間取材に行くことが可能」であり、「短期の取材では見えてこない新発見や、人間ドラマを描けるようになる」というわけだ。

 実際、著者が関わった番組は、スタジオ部分でタレントが出演することはあるが、あくまで番組のメインは“素人さん”。そのため「僕はテレビ局に九年もいるのに、仲のいいタレントは皆無です」と著者はいう。他方、赤坂のテレビ局に入社した知り合いには「千原ジュニアさんとよく旅行に行くんだ」などと自慢げに言われることも。それでも著者は、「別にうらやましくないですけど」とバッサリ切り捨てている。さすがテレ東!と掛け声のひとつでもかけたくなるではないか。

 タレントに頼らず、アイデア勝負で番組づくりを行うテレ東式の手作り精神。試されるのはディレクターの腕のみ、だからこそ「物作り」としての楽しさが大きい、と著者はいう。こうした姿勢が、たとえばバラエティなら“ひな壇芸人”ブレイク以降の新たな切り口を見つけられずに右往左往している他局と差をつけてきたことは確かだが、視聴者がテレ東を支持し始めたのはそれだけが理由ではないはずだ。

 思えば、開局から50年。当初から他局にバカにされ、お色気と素人頼みだと散々蔑まれ、倒産の危機にも陥り、「振り向けばテレ東」と揶揄されてきた──そうした歴史を覆すかのように、いま壮大なカウンターパンチを決めようとするテレ東。そこには、高い給料を貪り業界人を気取る“マスゴミ”への倍返しを期待する大衆の声援があるのではないか。そして、テレ東の潔い“自虐”が、そんな大衆の感情をますます高めてしまうのではないだろうか。

 先日放送された大型音楽生番組でも、『テレ東 音楽祭(初)』と、タイトルでわざわざ初めてであることを強調していたテレ東。しかし、人気者になってしまっては、自虐は通用しなくなる。次なる一手をどう打つか……ある意味、これからがテレ東の正念場となりそうだ。
(田岡 尼)

最終更新:2017.12.07 07:30

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