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“生活苦の指標”エンゲル係数アップに安倍首相がデタラメ言い訳! 直後にWikiのエンゲル係数解説が改ざん
1月31日の予委員会で答弁する安倍首相(参院インターネット審議中継より)
「エンゲル係数」がにわかに話題になっている。1月31日の参院予算委員会で、民進党の小川敏夫議員から安倍政権下でのエンゲル係数上昇を追及された首相が、詭弁を弄する無茶苦茶な答弁をしたからだろう。
小川議員は「生活の豊かさを示すエンゲル係数は顕著に上がっているという状況」「国が行った統計調査で、はっきり生活は悪くなっているということが出ている」などと指摘した。ところが安倍首相は、またぞろ聞かれてもいないのに有効求人倍率やベースアップなどをアピールしはじめ、エンゲル係数の上昇については「これは物価変動のほか、食生活や生活スタイルの変化が含まれているものと思います」と煙に巻いたのだった。
言うまでもなく、エンゲル係数は家計の消費支出総額中に占める食料費の割合のことで、一般に高ければ高いほど生活水準の低さ(生活の苦しさ)を表している。この数値が、第二次安倍政権のもとで急上昇しているというのは事実だ。総務省が公表している家計調査によると、2005年に22.9%(2人以上世帯)の最低を記録してからは長らく23パーセント台となっていた。ところが、アベノミクスが始動した2013年から急激な右肩上がり。2016年には25.8%を記録した。これは実に約30年前と同じ水準である。
しかし、その事実を指摘された安倍首相は、「生活スタイルの変化」などと言って誤魔化しにかかったわけだ。いやはや、戦後直後や高度経済成長期と比較するならまだしも、23パーセント台だった2006年から2012年までと、24パーセントから26パーセント弱まで急上昇した2013年以降では、人々の生活はそう大きく変わらない。安倍首相の“見たくないものは見ない”性質をモロに表している言い訳だが、これに対し小川議員はこう追撃した。
「エンゲル係数はアベノミクスが始まってから上がっている。これはやはり、政府が、生活が豊かになった、景気良くなったよと言いながら、国民が豊かになった実感をもたない、という声を聞きますが、まさにその声が裏付けられているわけじゃありませんか、国の調査によって。国民の生活が苦しくなってるんです」
「厳然たる事実ですよ、安倍総理。国が行った調査でエンゲル係数が上がっている。国民の生活が苦しくなっている。これが、アベノミクスの実質じゃないですか」
安倍首相の答弁直後に書き換えられたWikipediaの「エンゲル係数」
小川議員の言うとおりだろう。事実、マスコミ各社の世論調査でも、大多数がアベノミクスによる景気回復を実感していないという結果が出ている。たとえば1月のNHK調査では、「景気の回復を実感しているか」について「あまり実感していない」と「まったく実感していない」が合わせて76パーセント。読売新聞の調査でも、「安倍内閣のもとで、景気の回復を、実感していますか、実感していませんか」との質問に対し「実感していない」が73パーセントだった。
エンゲル係数が生活の豊かさ・苦しさを示す端的な指標である以上、その上昇は国民の生活苦という実感を意味している。安倍首相はアベノミクスによって国民生活が豊かになったと嘯くが、大ウソであることを正直に認めるべきだ。
まあ、アベノミクスに関しては、方々から失敗が指摘され続けてもなお、安倍首相は都合のいい数字だけを持ち出して、ひたすら成果を喧伝してきた。その態度を考えると、安倍首相が誤りを認めて軌道修正することなど期待できないが、他方で、今回のエンゲル係数に関する国会質疑をめぐっては、もうひとつ興味深いことが起きている。
小川議員が質問した1月31日参院予算委の翌日、ユーザー参加型のインターネット百科事典「Wikipedia」における「エンゲル係数」の項目が、まるで安倍政権に都合よくするかのように書き換えられたのである。
2017年10月5日に編集されたそれまでの版では、エンゲル係数の「概要」として〈一般に、エンゲル係数の値が高いほど生活水準は低いとされる。これは、食費(食糧・水など)は生命維持の関係から(嗜好品に比べて)極端な節約が困難とされるためであり、これをエンゲルの法則という。エンゲル係数の高低は生活水準を表す指標となっているが、価格体系や生活慣習の異なる社会集団の比較には必ずしも役だたない〉と常識的に記されていた。
それが2月1日の午前1時24分に、突如、あるユーザーがこう全面的に書き換えたのだ。
〈エンゲル係数の値が高いほど生活水準は低いとされてきたが、かつて各国の労働者の多くを占めていた農家・漁業域関係者が割合的に激減するなど都市化した現在では商品価格の水準・生活様式・食生活の内情・周辺環境が多様になったことで各家庭の前提条件に大きな相違があって比較にならなくなったとして重要度が下がっている。(以下略)〉
その後も“生活様式の変化等によりエンゲル係数の高低は重要でなくなった”という趣旨の記述が続く。安倍首相の答弁をなぞるような書き換えだ。しかもWikipediaは編集者の独自研究を載せない方針で、必ず出展を示すのがルールだが、記述の出展とされているのは小説であった。
同日午前5時3分には、別のユーザーが「小説をソースに書かれることではない」として記述を元に戻す編集を行った。しかし、同日午前7時32分には〈昨今では核家族や一人暮らしが増えて中食が増えるなどの要因により、一概にエンゲル係数の値が高いほど生活水準は低いとは言えなくなってきている〉等が加えられ、またすぐに削除されるなど編集合戦となり、同日9時には編集できないよう保護される事態となった。
すべてが安倍政権に都合よく書き換えられる? まるで小説『1984』
Wikipediaのエンゲル係数の項目を、“重要度が下がっている”“高いほど生活水準が低いとは言えない”などと改変したユーザーは、いずれも他の編集履歴が確認できず、誰がどのような意図で編集したかは不明である。しかし、エンゲル係数上昇の問題が国会で取り上げられた直後というタイミングや、自民党がネットを常時監視し、工作別働隊であるJ-NSC(通称ネトサポ)を組織していることを考えると、これは偶然なのかとの疑念が頭をもたげてくる。
この状況を見ながらふと思い起こしたのは、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』だ。言わずと知れた、全体主義的社会を描いた名作SFである。主人公のウィンストン・スミスは、「ビッグ・ブラザー」が率いる一党独裁政権下のイギリスで「真理省」に勤務し、歴史改竄の仕事をしている。人々は「テレスクリーン」という装置によって監視されている。物語の序盤、主人公が「タイムズ」紙の記事を改変する場面がこのように描かれる。
〈ウィンストンはテレスクリーンの“バックナンバー”をダイヤルし、《タイムズ》の該当号を請求した。するとそれは数分のうちに気送管から流れ出てくる。彼の受けたメッセージは新聞の論説か記事に関わるもので、それが何らかの理由で改変、いや公式の言い方では修正、する必要があると見做されたのだった。〉
〈つい先頃、この二月に潤沢省は一九八四年にはチョコレートの配給は減らさないという約束(“定言的公約”というのが公式用語だった)を公表した。ところが現実には、ウィンストンも知っているように、チョコレートの配給は今週末に三十グラムから二十グラムへと減らされることになった。したがって、元々の約束を、四月のどこかの時点で配給量の削減が必要になるだろうという警告に置き換えさえすればいいのだった。〉(2009年の早川書房、高橋和久訳版『一九八四年』)
テレスクリーンからは党のプロパガンダが垂れ流される。繰り返される「われらの幸福な新生活」という言葉。潤沢省は「我々は生産性向上のための戦いに勝利しました! 全種類の消費財の生産高に関する最終報告書によれば、生活水準が昨年に比べ少なくとも二十パーセント上昇したのです」と発表する。ウィンストンはテレスクリーンから流れてくる政府の発表を聞きながら、こう思う。
〈チョコレートの配給を週二十グラムに増量してくれたというので〈ビッグ・ブラザー〉に感謝するデモすらあったらしい。だが、つい昨日──彼は思った──配給が週二十グラムに減るという発表があったばかりではないか。あれから二十四時間しか経っていないというのに、誰もがそんなことを鵜呑みにできるものだろうか? できる、みんな鵜呑みにしたのだ!〉
「#くいもんみんな小さくなってませんか日本」は事実だった
『1984』のような極端な状況にはなるはずがないと笑う人もいるだろうが、はたしてそうか。事実、安倍政権はアベノミクスで国民の生活がよくなったと繰り返し、都合のよい数字だけを並べ立てることで国民の実感のほうが間違いだと印象付けようとしている。そして、テレスクリーンの代わりに人々はインターネットを毎日利用していて、自由で民主的な装置だと錯覚しながら、得られる情報を鵜呑みにしているではないか。
さらに、『1984』を想起させられるのが、値段は変わらないのに、いつのまにか食料品の容量が少なくなっている、という問題だ。
これは「スモールチェンジ」と呼ばれ、例の「#くいもんみんな小さくなってませんか日本」というハッシュタグが指摘したが、まぎれもない事実である。パックの牛乳、チーズ、ソーセージ、ミートソース、ジャム、果てはスーパーのおにぎりまで、実例を挙げればきりがない。ほかにも、茶色の包みでおなじみの板チョコ「明治ミルクチョコレート」は2014年に5グラムの減量をした。パッケージはそのまま、少しだけサイズダウンしていたのだ。一見しただけでは気がつかない。
「#くいもんみんな小さくなってませんか」を特集したNHK『クローズアップ現代+』(1月18日放送)では、その理由として原料調達コストの高騰が挙げられた。実態を調査した渡辺努・東京大学大学院教授によれば、2008年に海外の穀物や原材料が上がったため、スモールチェンジが大量に発生したという。その後、スモールチェンジの動きはおさまったかに思えたが、2013年から3年連続でまた増えていた。
渡辺教授は、アベノミクスのスタートと日銀による異次元金緩和の影響を指摘する。これらが円安をもたらしたことで原価が上昇。結果、“いつのまにか食べ物が小さくなっていた”というわけである。メーカー側が原価上昇分を値上げしようと思っても、冷え込む消費者心理から上げられないのだろう。背景にはやはり、アベノミクスの宣伝と生活の実感とを乖離させている安倍政権の経済政策があると考えざるを得ない。
安倍政権下でのエンゲル係数の上昇、Wikipediaの改変、オーウェルの『一九八四年』、そして食品のスモールチェンジは根の部分で繋がっているように思える。人々の生活は苦しくなっている。政府は景気回復を宣伝し続ける一方、不都合な事実は徹底して退ける。「誰か」が安倍政権は悪くないと言いふらす。チョコレートは少しずつだが確実に小さくなっている──。
さすがに、自分の「実感」までは捻じ曲げられないだろうと思うかもしれない。だが、たとえば安倍政権がしきりに持ち出す有効求人倍率にしても、メディアで就職がうまくいった学生のみがコメントばかりが使われることで、さも「景気回復」の象徴かのごとく刷り込まれているのが現実だ。このままでは、私たちの「実感」までもがいつのまにか塗り替えられかねない。少なくとも、政府の言葉はすべて宣伝であるということを意識しなおすべきだ。
(宮島みつや)
最終更新:2018.02.04 03:19
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