「ブラ弁は見た!」も2周目に突入ということで、久しぶりに私にお鉢が回ってきた。久しぶりということもあり、どんなブラック企業のことがよかろうかと考えていた。たとえば、正社員で入社したのにいつのまにか業務委託契約を結ばされて、給料が5万円になってしまった話や男性社員が育休をとったら懲戒解雇されてしまった話、死ぬほど働かされて病気になって休職したら会社が就業規則を変更して休職期間を短くしてきた話など、悲しいことに挙げればキリがない。
そんな中で、今回は、会社のナンバー2だったのに、社長が代替わりしたため、新社長から壮絶なパワハラを受けた話を紹介したい。思えば、昨年はスポーツ界、芸能界、政治界とハラスメントが話題になった年だった。以下の話は、残念ながら「よくある話」かもしれない……。
舞台は地方のある中堅企業である。機械の部品製造をする会社で、創業者が一代で築き上げ、事件当時で創業40年以上、派手さはないが堅実な仕事で信を得てきた優良企業といっていいだろう。ここに創業15年ほどのタイミングで入社したX氏。営業職をまかされ、会社のために献身的に働き、創業者からの信頼も得て、少しずつ重要な仕事を任されるようになる。入社から20年ほど経った時には、会社の役員ではないものの、重要な社員として重宝されていた。
ところが、創業社長が急逝したころから、会社の雲行きが変わってくる。
創業者の息子が二代目社長となると、なぜか上層部の人間が辞めていくのである。当時のナンバー2であった取締役事業部長が突然退職、その後任に就いた者も数年で退職してしまったのである。次々と上が空くので、X氏は「出世」し、ついにはナンバー2と目される順番にまでなった。
しかし、これが悲劇の始まりであり、なぜ上の人たちが辞めていったのかを身をもって知ることになるのである。
優良企業と言っても、中規模の企業である。部品販売先は大手企業が多く、どうしても値段を下げろという圧力かかる。他方、部品を納めた先が中小企業の場合は、お金を払わずに倒産してしまうことなども、珍しい話ではない。そうした中で、X氏は、大企業からの値下げ圧力、中小企業の倒産リスクの中で、会社になんとか利益をもたらそうと粉骨砕身の努力をしていた。
ところが、ある時、部品を納めた企業が倒産するという事態が発生した。未回収金が出てしまったのである。このことをX氏は社長に報告すると、社長は「その上の会社から回収してこい」と命令を出した。「その上の会社」とは、倒産した会社に発注している会社である。
ここでいう「上の会社」から倒産した会社の未回収金を回収するというのは、かなり無茶なミッションである。法律的には、「上の会社」とX氏の会社とは契約関係に無いのだから、お金を請求する筋合いがない。そのため、X氏も、「それは難しいのではないでしょうか」と意見を述べていたが、そんなことを一切意に介さない社長は、命令を撤回することはなかった。
社長から命令を受けたX氏は、「お願いベース」でやるということで、まずは「お願い」の文書を作成し、社長に見せた。すると、社長は、文面を一瞥すると、「やりなおし」と冷たくいうのであった。X氏は、「どこが悪いのでしょうか?」と問うと、社長は「ばかやろう!俺が1回でOK出すわけがねえだろう!」と怒鳴りつけた。内容の問題ではないのである。
なお、社長は二代目、X氏は当時入社30年近いベテランである。年齢も社長よりX氏の方が10歳以上も上である。