また、羽田圭介もくだんの『ダウンタウンDX』で受賞作『スクラップ・アンド・ビルド』(文藝春秋)で得た印税額を「今のところ2200万円とか」と告白。これまた、一般庶民からすると、作家は金にならないと愚痴るような金額でもない気がする。
しかし、又吉や羽田はあくまでレアケースだ。『火花』のような240万部なんて部数が出る本がめったに存在しないのはもちろん、羽田の『スクラップ・アンド・ビルド』くらい売れる小説もそうそうない。
では、一般的な小説はどれくらい売れるものなのだろうか? 作家の松久淳は『中流作家入門』(KADOKAWA)でこう綴っている。
〈正確な数字は知らないけど、小説の新刊なんて1万部に届かない本が全体の90%とも95%とも言われている。5000部切ってる本の割合もそうとうなもの。つまり君たちはほとんどの本のタイトルすら知らないということになる。
じゃあいま本屋さんに並んでる君たちが読んだことがない1500円の新刊小説、仮に部数を5000部と推測すると作家自身にいくら入るか、計算してみてごらん。きっとその作家が1年くらいかけて書いた渾身の1冊、その印税。結論は簡単。
「食えないじゃん」
食えないんだよ。
だからみんな、会社勤めを辞めなかったり、講師とかのバイトをしなくちゃいけないんだよ〉
実際に、1500円の小説を5000部刷って印税率10%もらう計算をしてみると……、たった75万円である。大半の「普通」の作家は、血の滲むような苦労をして1冊の本を書き上げても100万ももらえないのである。
そこで専業作家の生計を助けてくれるのが、講演・テレビ出演など本業以外の雑収入だ。芥川賞受賞以降、今どき珍しい無頼なキャラクターが受け、テレビで見る機会の増えた西村賢太は「宝島」(宝島社)15年10月号でこう語っている。
〈受賞したことによって、それ以前はまず依頼のなかった随筆や対談、他者著作物への解説文など小説以外の仕事も増えました。(中略)
随筆も月3本書けば「塵も積もれば」で、それなりの収入になりますからね。
このほか、テレビ出演なんかのアルバイト仕事にも、ポツポツありついていますし〉
この「テレビ出演なんかのアルバイト仕事」に代表される本業以外の雑収入が作家の生活を支える肝となる。森も『作家の収支』のなかで〈作家の中にはこちらの方が割合が多いという人もけっこういるようだ(作家だけでは生計が成り立たない、という例を含めれば、大半といっても良いかもしれない)〉と綴っている。