それからの溜池は並の“イクメン”など鼻で笑いたくなるほど徹底している。タバコや酒を止めたのはもちろん、〈出産予定日の前後一週間ずつ、計2週間、仕事を入れなかった〉と言い、当時のことを〈そういうときは何が何でも休まなくっちゃ。妻が出産するんだよ? 最優先にしなくてどうする?〉と述懐する。
さらに出産後には息子が生まれたことを神に感謝するため、毎朝5時に「神様ありがとう」と唱えつつ涙を流しながら走っていたという。坊主頭に黒尽くめで。
異様な光景に川奈は笑うが、こういった円満な夫婦生活はAV業界人同士ではなかなかむつかしいだろう。それはふたりも、自覚している。
〈川奈「夜遅くまで一生懸命仕事して、家では私を労ってくれるし、暇があると何か勉強してるし、私は凄い人と結婚してしまったんだと思った」
溜池「でも、やっぱりワシらみたいなケースは珍しいんだろな」
川奈「AV業界人同士が結婚して家庭を築くってこと?」
溜池「そう。普通に穏やかに家庭で暮らすのって、特にAV出演している人たちにとっては難しいことだから……」〉
ふたりが“普通”以上に穏やかに、幸せに暮らせているのは、結局、お互いへの思いやりや尊敬の気持ちという当たり前のことがあるからだろう。本書にはこんな言葉が散りばめられている。
〈終わらない恋も、永遠の愛も、どうやら本当にありそうな気がしてきた今日この頃です〉
普通なら、クサすぎる台詞だが、この2人の言葉だと思うと、すんなり受け入れられそうな気がしてくるのが不思議である。
(羽屋川ふみ)
最終更新:2015.06.08 09:33