櫻井よしこは『反日種族主義』を中立と言うが、著者は韓国「ニューライト」の中心人物
そのうえで改めて指摘しておこう。『反日種族主義』には、明らかに学術的研究を超えた特定の政治的意図が込められている。“極右の女神”こと櫻井よしこ氏は「週刊新潮」(新潮社)の連載で〈李氏は経済史の専門家としてずっと数字や事実に拘り続けてきた。フィールド・ワークから導き出される事実は政治的偏りとは無縁である〉と同書の「中立性」を強調しているが、実際には、李栄薫氏らのスタンスは「政治的偏り」そのものだ。
李栄薫氏は韓国経済史を専門とする元ソウル大学教授で、いわゆる韓国の「ニューライト」の中心的人物である。「ニューライト」というのは、簡単に言えば、「南北統一」などの革新系政治に反対し、「日本による植民地時代が韓国近代化の礎を築いた」なる「植民地近代化論」の論陣を張ることが多い保守系グループだ。その政治思想的傾向から日本の右派と極めて相性がよい。事実、以前から韓国のニューライト運動については、産経新聞らが繰り返し好意的に取り上げてきた。
もう少し解説しておこう。そもそも、戦後に日本による植民地支配から解放された朝鮮半島は、少なくとも政治の水面下においては、長らく日本の右派との協調的関係を築いてきた。初代の李承晩政権が学生運動で倒れたのちも、朴正煕が軍事クーデターで実権を握り、この間の韓国軍事政権と日本の自民党政権は“蜜月”とすら言えた。なにより、韓国の軍事クーデターにお墨付きを与えたのが、米国とその手下である日本だったからだ。とりわけ「安倍晋三の祖父」である岸信介と「朴槿恵の父」である朴正煕が「親友」であったことはよく知られている。日韓基本条約(および日韓請求権協定)をまとめ締結したのも、岸の後を継いだ池田勇人、佐藤栄作と朴正煕政権でのことだ。
韓国で「ニューライト」が登場するのは民主化以降、1998年に金大中が初めて革新系大統領となってからだ。創始者の一人である安秉直・元ソウル大教授は『反日種族主義』編著者・李栄薫氏の師にあたる。「ニューライト」は李承晩を「自由主義的建国の父」と崇め、新自由主義的経済政策を掲げながら、日本植民地時代を肯定的に評価する「代案教科書」運動などで、革新(進歩)系政府とその歴史認識を徹底批判した。つまり、金大中・盧武鉉と続いたリベラル系政権へのカウンター運動である。