大手芸能プロの「タレント育成にお金がかかる」という主張は詭弁
新しい地図やのんの事例を見て、こういった不当な契約や状況に声があがり始めているのがここ最近の状況だが、その一方で、事務所の振る舞いを擁護する意見も少なからずある。
その典型例が「タレント育成費」に関するものだ。
インタビューのなかで記者も福田氏に「大手事務所は1人のスターを育てるのに、多額の投資をしています。ある程度の束縛は仕方が無いのでは」という質問をぶつけている。
記者の質問は世間でも少なくない数の人々が共有してしまっているものだが、これに対する福田氏の回答は、その先入観を完全に覆すものだった。
「逆に聞きますが、タレントを1人育てる投資って、いくらだと思います?講師へのレッスン代、家賃、給料などで、だいたい年700万~800万円程度でしょう。事務所は1人のタレントが芽が出るまで何年も待ちません。一方、CM1本が決まればギャラは約3千万。代理店が15%を引き、事務所が半分取ったとしても1本で元が取れる。でも何年にもわたってヒットを出し、事務所に貢献したタレントでも、『育てた恩を忘れやがって』と干されるのです」
「タレントの育成にもお金がかかっている」というのは、事務所の人権蹂躙を正当化する詭弁に過ぎない。このように、タレントを縛りつけ、さらに稼がせるための方便は枚挙にいとまがない。大手プロの既得権益を守るための詭弁を前に思考停止せず、福田氏のように冷静に検証する視点は重要だろう。
「江戸時代の女衒の世界」「インドやアフリカの児童労働」と福田氏が評した芸能事務所による「奴隷契約」。その被害者は、のんや新しい地図の3人だけではない。公取委の一連の動きが芸能界の悪しき慣例を断ち切る流れにつながっていくよう、これからも注視していく必要がある。
(編集部)
最終更新:2019.08.28 08:14