原田監督「今の日本で起こっていることを入れないとリアルな社会派ドラマにはならない。そして今の日本社会は絶対におかしい」
原田 昨年の映画『関ヶ原』のときも反発はあったんです。朝鮮人兵士が登場するということで。しかし調べてみると現実にあったかもしれないことなんです。石田三成方にあった大砲、青銅砲の仏郎機は元々、豊臣秀吉の朝鮮侵攻にともなって、半島から持ってきたもの。同時に捕虜も一緒に来たし、大砲と一緒に砲兵が関わっていたとしても不思議ではない。それで『関ヶ原』は単純に日本人だけの話じゃない、というところを最後に入れた。すると、それに対する大きな反発が起きたんです。僕は韓国の映画人と一緒に映画を作りたいと思っているし、韓国の映画監督に好きな人も大勢いる。映画人として韓国人と繋がっていきたい思いもある。しかも歴史的に見て大きな可能性のあること。さらにいえば映画というものは、一国だけのものではない。
室井 国と国との関係や平和、そして表現ってそういうことですよね。絵画や映画、文学って国籍や人種なんて関係ない。いいものは誰が見てもいいですもんね。
原田 そうですね。僕はいろんな国に行って映画を撮っていますが、映画人が喋る言葉は共通しているなと思います。特に、不偏不党の精神を持っている人が多い。右寄りでも左寄りでも、映画の現場に入ったらリベラルになる。僕もその意識でずっとやってきました。そして『検察側の罪人』は「何が正義か」ということがテーマです。今の日本で起こっていることを入れないとリアルな社会派ドラマにはならない。そして今の日本社会は絶対におかしい。ですから政治メッセージというより、これは現実なんです。
室井 すごいすっきりしました。わたしは物書きですけど、物書きの根底は社会や権力に対し懐疑的じゃなきゃいけないと思ってきたんです。そして監督と同じで、今の世の中は変だなと思っています。たとえば原発団体の寄稿文を書いている人から、震災後「原発の悪口を言わないでくれ」と言われたり。重しがたくさんあって、好きなことを書いたり発言できなくなってきている。すごく歪んでいると思っていました。だから映画を見てすごくすっきりしました。
原田 映画のほうがある意味やりやすいかもしれません。物書きと違って、ひとりが突出するわけじゃないじゃないから。大勢の人が関わっている。ただ、日本は怖くなっていると感じています。『日本のいちばん長い日』を撮ったときもそうだけど、昭和天皇を人間として考えたらいちばん悪いやつが見えてくるんじゃないのかなと思ったんです。メディアに煽られた面もあり、国民があれだけ右のほうに、危険なほうに走っていってしまった。そこに昭和天皇はついて行かざるを得なかったという部分を描きたかった。でも理解してくれない人がずいぶん多かった気がします。
室井 わかります。作品の真意、本質を見ないで、表面的なところで攻撃される。
原田 そういうことが表現の自由を圧迫してくる恐れがある。時代劇ですと歴史的な問題などで微妙な駆け引きはありますが、しかし現代劇の場合は、現在、自分たちが関わっている時代でもあるので、闘いの姿勢を全面に出していいかなと思っています。