庵野秀明も訴えていたアニメ制作会社の窮状
庵野監督も、作品のために集めた資金や、作品で得た利益が製作委員会のなかだけで回り、下請けの制作会社やアニメーターに還元されない状況へ疑義を訴えているわけだ。では、具体的にどれほど下請けに資金がまわって来ないのか。少し古い資料になるが、「週刊金曜日」07年11月30日号にはこのように書かれている。
〈経済産業省の文化情報関連産業課調査によると、四年前の資料だが、テレビアニメ番組制作のためスポンサーが支払った金額は、五〇〇〇万円。このうち、制作プロダクション(元請け)にまわってくるのが、十六%の八〇〇万円でしかない。残りの四二〇〇万円、八四%のうち、広告代理店が一〇〇〇万円、テレビ局(キー局が一二〇〇万円、残りの二〇〇〇万円を各地方局)が取る〉
このわずか800万円のなかから、まず元請けの制作プロダクションがマージンをとり、その後に下請けの作画会社や編集会社、声優のギャランティへと回っていく仕組みとなっている。これでは末端スタッフまでお金が行き渡らないのは当然だろう。そのうえ、この少ない制作資金で汗水垂らしてつくった作品がヒットしても、それによるインセンティブはすべて製作委員会のもので、自分たちは何も得られないのだ。これはいくらなんでもむごすぎる。
前述した『クローズアップ現代+』のような特集が組まれていることからもわかる通り、いま現在でも、製作委員会だけに利益が還元されるシステムは改善されることなく、搾取の構造は続いている。
ただ、庵野監督が言う通り、定着してしまったこのシステムを変革するのは困難だ。『クローズアップ現代+』でも、これまであげてきたような窮状を説明するのみで、具体的な解決策としては、一部のアニメ制作会社が導入している「CG技術やAIを導入することによって作業の徹底した効率化を実現させ大幅なコストカットをする」といった方法を紹介するにとどまった。
この結論づけにはアニメファンから疑問の声が多くあがったが、視聴者が怒る通り、この問題を根本から解決するには、搾取の構図や制作費の少なさといった諸問題をどうにかするしかないだろう。
番組の最後、ゲストコメンテーターとしてスタジオに招かれていたアニメーション監督の入江泰浩氏は、NHKも名指ししつつ、このように語っていた。
「これはNHKさんを含め、いろいろなテレビ局にお願いしたいところなんですけれども、コンテンツとしてアニメーションをこれからもつくり続けていくことが決まっているのであれば、制作費を倍にして、さらに安心してアニメーターがつくることができる、そういう環境をつくっていただきたいと強く思います」
政府が「クールジャパン」のお題目のもとにアニメ産業を輸出産業の一角に据えようという動きが出て久しいが、その礎をつくる肝心の現場がこのような状況では、「クールジャパン」の国策とは裏腹に、アニメ業界そのものが崩れ去ってしまうかもしれない。
(新田 樹)
最終更新:2018.10.18 04:21