まず、時下の問題として挙げられるのは、自衛官の退職者・志願者数の減少だ。安倍首相は7月のニコニコ生放送で「いま自衛隊に応募する方は多く、競争率は7倍なんです」「(集団的自衛権の行使容認によって)応募する人は減るはずだと(中略)批判をされているんですが、実は7倍のままなんです」と勝ち誇ったように語ったが、実際は集団的自衛権の行使容認を閣議決定した2014年度、自衛隊の志願者数は、「任期制」隊員が〈二〇〇〇人以上減少〉、「非任期制」も一般曹候補生が〈三〇〇〇人以上〉、一般幹部候補生は〈五〇〇人以上〉も減少している。しかも、〈「任期制」隊員では、「採用目標」を達成するために年度末ぎりぎりまで募集を実施〉していた。
この志願者数の激減について、安倍首相は決して集団的自衛権の影響を認めないが、布施氏が情報公開請求を行った防衛省の資料(九州・沖縄地方の地方協力本部長会議の説明資料)では、しっかりと〈「企業の雇用状況改善」とともに「集団的自衛権に関する報道」を要因に挙げ〉られているという。
さらに退職者の数も同様で、14年度の退職者は13年度よりも500人以上も増加。これもまた集団的自衛権の影響と思われるが、少子化で自衛隊員の確保が難しくなっているなかで、さらに安保法制の成立で志願者・退職者が今後減少することは目に見えている。
安保法制によって自衛隊の活動は大幅に拡大する一方で、それを支える隊員の数は減少。しかし徴兵制の導入を検討すれば非難を浴びることは必至……。そうなると、“背に腹は変えられない”人びとをターゲットにしようと考えるのは自然な流れだ。
事実、「経済的徴兵制」を敷いていると言っていい状況のアメリカでは、〈一定期間以上軍務に就いた者に大学の学費や職業訓練を受けるための費用を給付〉する奨学金制度を1944年に制定、これによって〈それまで一部の富裕層しか入ることのできなかった大学に大量の復員兵が入学し(二年間で一〇〇万人以上が入学し、一九四七年には全米の学生の半数は復員兵が占めた)、その後のアメリカの中流階級形成の原動力になったといわれている〉という。しかも2008年に新設された制度では、〈九・一一以降に九〇日以上軍務に就いた兵士を対象に、大学の学費全額に加えて、住宅手当や教科書などの必需品の費用まで給付〉〈権利を配偶者や子どもに譲渡することも可能〉となった。布施氏は、アメリカの「経済的徴兵制」の現実について、このように述べている。
〈戦争は、大量の武器や弾薬とともに人間の命も消耗する。そして、消耗される命のほとんどは、愛国心に燃えた富裕層の若者ではなく、教育を受けたり病院にかかったりする基本的な権利すら奪われている貧困層の若者なのである〉