日本ユネスコ国内委員会は、世界遺産候補を公募し選定しているが、今回の公募の一つに鹿児島県南九州市が申請した特攻隊の遺書などの関連記録があった。この特攻隊資料は知覧特攻平和会館が保存しているもので、昨年2014年にも申請されたものの、「日本からの視点のみが説明されている」と指摘され、落選していた(朝日新聞15年06月05付)。
しかも、この申請に関わっていたのが、総理である安倍首相本人だった。月刊総合誌「FACTA」14年5月号の記事によると、昨年、安倍首相は、特攻隊資料を記憶遺産申請の手続きに入るようにと自ら指示。〈「集団的自衛権問題が佳境の折に雑音を増やすだけ」と自民党内からも懸念が上がっている〉と伝えている。
たしかに、軍の命令に抗えず、無謀な作戦の捨て駒として扱われ、命を落とした特攻隊の存在は決して忘れてはいけないものだ。しかし、百田尚樹の『永遠の0』が象徴的なように、ときとして特攻は「命がけで国を守ろうとした勇敢な兵士」として賞揚され、戦争および戦時体制の肯定の材料にもされてきた。
それを世界記憶遺産に推すという行為は、当然、特攻礼賛と受け取られかねない。実際、昨年に開かれた霜出勘平・南九州市市長の会見では、知覧特攻平和会館を訪れたことがあるというイギリス・タイム紙の記者が「特攻隊員の犠牲がまるで崇高な死であったような印象を見学者に与える」と言い、ドイツの記者からも「悲劇を繰り返させないためであるなら、戦争が起きた原因をはっきりさせるべきではないか」と鋭い指摘を受けている。
こうした諸外国からの反発はふつうに予想できるものだが、しかし、安倍首相はそれでもなお特攻隊資料に執着する。それはまるで、今年、世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」のときと同じように。
既報の通り、安倍首相は「明治日本の産業革命遺産」についても自身の人脈をフル活用して全面的にバックアップ。世界遺産登録の「陰の立役者」と呼ばれ、安倍首相の幼なじみでもある加藤康子氏には「君がやろうとしていることは『坂の上の雲』だな。これは、俺がやらせてあげる」と語り、自民党総裁の座に返り咲いた3日後には彼女に「産業遺産やるから」と明言したという。