ルールが欠如しているタイの生殖ビジネスのなかにおいても、金さえ払えばなんでもOKという「オールIVFクリニック」は、代理出産を利用したい外国人にとっては有り難い存在だったようだ。
このようにタイにおける生殖ビジネスのハードルが極端に低くなった背景には、インドが代理出産に関する取り締まりを強化したことがある。
「インドでの代理出産の道を完全にシャットアウトされた男性同性愛者らが、渡航先を変え、タイで代理出産を依頼するようになっていった(中略)タイではあらゆる生殖サービスへのアクセスが容易であることや、医療水準が高いことが、このシフトをいっそう促進した」
その結果が、「オールIVFクリニック」のような商業主義に走る医療機関の登場であり、外国人依頼者による2つのトラブルだったのだろう。
結局、これらの事件を受けて、「オールIVFクリニック」は廃業に追い込まれてしまう。さらに、15年2月には商業的代理出産を禁止する法律が成立。タイは、インドの後を追うようにして、代理出産の中心地ではなくなりつつある。
インドとタイが生殖ビジネスの中心地となったのは、アメリカよりも費用が格段に安く、そして合法であったからだ。その2つの市場が消失したことで、外国人による代理出産を目的とした「子づくりツアー」が激減してしまうのだろうか。しかし、『ルポ 生殖ビジネス』において著者・日比野氏はこう予測する。
「インド、タイなど市場の膨張と収縮を背景として、商業的代理出産のグローバルなネットワークがより一層精緻化されてきている。このようなネットワークを利用することにより、今や依頼者、代理母、卵子ドナー、受精卵、配偶子などが国境を超えてさまざまに移動している。(中略)商業的代理出産というスキームは、世界のどこかの場所で生き続けていくのだろう」
すでに世界中には代理出産のネットワークが構築されている。子どもが欲しいという依頼者はまだまだいるわけであり、生殖ビジネスが消滅することなど考えにくい、というわけだ。
とはいえ、インドやタイでの手頃な代理出産がむつかしくなった今、不妊に悩む人々は非合法の危険な生殖ビジネスに手を出さざるをえなくなり、以前よりトラブルの可能性はむしろ高まっている。
法的な問題や倫理的な問題を解決する必要があるのは確かだが、晩婚化や少子化、不妊の問題などを考えると、日本も代理出産についてもう少し本格的に法整備を進めるべきなのかもしれない。
(田中ヒロナ)
最終更新:2015.08.18 07:39