気になるのが、代理出産にかかる費用だ。「代理出産プログラムのパッケージ料金は2万ドルから2万5千ドルくらい」で、日本円にすると250万~300万円程度。「体外受精、代理母の妊娠中の生活費、食事代、出産費用、報酬など」すべてが含まれており、アメリカで代理出産をする場合の数分の一程度だ。また、そのうち代理母への報酬は「トータルで25万~35万ルピー(約50万~70万円)ほどで、これは代理母家族の世帯収入の4~5年分にあたる」という。約9カ月の妊娠期間で、4~5年分の収入を手にできるということで、報酬としては決して悪いものではなさそうだ。
インドとともに生殖ビジネスの中心地となっているのがタイだ。もともと国際的にも医療技術・サービスが高いタイだが、その一方で規制の緩さが生殖ビジネス隆盛の大きな要因となっていた。
「タイでは生殖補助医療に関し、2015年2月に至るまで法規制が導入されることがなかった。タイの生殖ビジネスの膨張を結果として後押ししたのは、こうした“ルールの欠如”であった」
そんなルールの欠如ゆえ、卵子提供や代理出産だけでなく「男女産み分け」も盛んに行われるというのだ。
「子どもの性別を親の好みに合わせて選択することは、倫理的に問題があるだけでなく、性比や人口構成に歪みをもたらしかねないため、多くの国で禁止されている。このため、規制が緩いタイの着床前診断技術を目当てに、男児選好の考え方が強いインドや中国、ベトナムなどのから多くの顧客がやってくるようになっていた」
「着床前診断技術」とは、受精卵の段階で染色体や遺伝子を調べ、性別を判断するものであり、体外受精が不可欠となる。つまり、タイでは、男女産み分けのために不妊でないにもかかわらず、体外受精をするケースもあるというわけだ。
また、タイでは徳を積むという意味の「タンブン」という仏教の考え方が一般的だ。よい行いをすれば来世での豊かな生活が保証されるという教えなのだが、これが生殖ビジネスを肯定することにつながっている。
「タンブンの考え方はタイの人々の日常生活の隅々にまで浸透しており、卵子ドナーや代理母として協力すれば、不妊で困っている人を助ける善行になると認識されることにもなる。(中略)タイでは代理出産はタンブンにもつながるような道徳的によい行いだというイメージが存在している」