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自ら女郎に下った醜女の幼馴染、25円で売られた友達…昭和の遊郭を描いた伝説のマンガ『親なるもの 断崖』がスゴい!

 たとえばお梅は、女郎として名が売れたころに、突然、反政府主義者の学生と恋に落ちるのだが、特高の手によって仲を引き裂かれ、相手の学生は拷問にあい、片目片足を失ったのち行方不明に。ひとり残された彼女自身も「アカの女郎」として、一生迫害され続けることになってしまう。

 また、本作は2部構成になっており、物語後半の主人公はお梅の娘「道生」にバトンタッチする。おりしも世の中は戦時体制まっただ中。道生はその出自と、「戦争なんてきらいだ」と平気で言ってのける正直な言動のため「非国民」と罵られ続けるが、武子をはじめとする多くの人々に見守られながら、次の時代に向かい、生きて行く。

 以上が大まかなストーリーである。

 ちなみに幕西遊郭は昭和33年に公娼制が廃止されるまで実在した。約半世紀前にそんな世界があったことはまるで知らなかったが、それはちょうど遊郭が廃止された年に生まれ、室蘭で育った著者にとっても同じだったそうだ。大人たちは遊郭について決して教えてくれず、マンガ家デビューを果たしたあと故郷を舞台にした作品を描くため歴史資料を集めていたときに、はじめてその存在を知ったのだという。

 作中で何度も描写される工業都市・室蘭の風景。それは時代が変わってもいつも「赤い」。戦時中では昼夜を問わず燃え続ける溶鉱炉の炎が、高度成長期では工場が撒き散らす鉄の粉まじりの煙が、街を赤一色に染めるのである。その赤色を著者はこう表現している。

〈あれは 底辺に生きる庶民の流した 血の色だ〉

 実際読んでいて印象的だったのが、白黒の見開きページにありえないはずの赤色が見えたこと。これまでのマンガ体験になく背筋がゾクッとし、これだけの作品に、まったくの怖いもの見たさで手を出した自分がとても恥ずかしくなったのである。

 だが、そのときこうも考えた。いまや日本国民全員の胸に刻み込まれた名作『はだしのゲン』だってみんなはじめは、学校の図書室とかで怖いもの見たさに読んだに決まってる!と。今回の復刊を期に『親なるもの 断崖』もまた、そのようなかたちで愛され続け、語り継がれるマンガになってほしい、いや、なっていくはずだ。
(松本 滋)

最終更新:2018.10.18 04:35

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