「まず動くのは船班だ。湾内を自由に泳いでいた群れをゆっくりと岸へ追い立てながら、網を狭めていく。網の中が狭くなり密度が高くなる。水深も数十センチほどになり、勢い余って岸に乗り上げてくるイルカもいる。
次の仕事は──この仕事が最も危険である──ウエットスーツ姿の海班が浅瀬に上がってきたイルカの尾びれにロープをかける。もちろん海中での作業だ。(略)
このロープを受け取った陸班は、岸に張った長い網につなぎイルカの動きを抑える。イルカの尾びれの力はとても強力で、作業を危険なものにする。おとなしくなったようなそぶりに安心すると、突然『バタくる(大暴れする)』ことも多い。動きの減った間合いを見て、脳と脊髄をつなぐ大動脈および神経を切断することで絶命させる」
このようにして屠殺されたイルカたちは、小型船で魚市場まで運搬され、刃渡30センチの大包丁と補助用の手鈎を使い、人力で解剖されることになる。解剖作業が終わると、肉は床に並べられ、皮は皮だけ、内臓は内臓だけを集めて大きなコンテナに詰め込まれるのだが、同書にはイルカの肉の“味”についての描写もある。
「その頃、だれとなく、肉の一部を薄切りにして解剖したてほやほやの試食会が始まる。ニンニク醤油あるいはショウガ醤油でつまむのだが、何十年も食べ続けているはずなのに、時としてニンニクが旨いかショウガが旨いかの議論になる。これに決着がつくことはないのだが、それにしてもこの試食鯨肉は旨い。保存用に冷凍した物と違って、体温が残っており脂が固まっていないのだ。表現は難しいが、冷やして固まったバターと、トーストの上で溶けたバターの違いになるだろうか」
一方、今回問題になっている“水族館行き”のイルカは、岸に追い立てられている個体から購入側の希望に沿うものを海班が選ぶらしい。体の大きさや傷の有無、さらには性別も確認する。
「ちなみに、購入側の希望は『若メス』であることが多い。その理由としては若齢個体のほうが新規環境に慣れやすいこと、メスは繁殖の期待ができるとともに、性格が比較的おとなしいことが挙げられる。
購入が決まったイルカは、専用の担架に乗せられて吊りあげられ、輸送用のトラックに収容され、そのまま運ばれていくものと、しばらく太地で蓄養されるものがある。蓄養組は、小型ボートの船べりに担架で括りつけられて、ゆっくりと生け簀へ運ばれていく」
これが、現在、行われているイルカ追い込み漁の一部始終だ。しかし、だとしたら、なぜテレビはこうした漁のVTRを流さず、詳細を解説しないのか。