それはやはり、この漁法がテレビコード的に「残酷」だからだろう。
実は、イルカの追い込み漁をやっているのは、和歌山県・太地町だけではない。デンマークのフェロー諸島でも行われている。その実態をルポした『白人はイルカを食べてもOKで日本人はNGの本当の理由』(講談社)では、扉ページのグラビアつきで、フェロー諸島での鯨漁の光景が以下のように描かれている。
「ナイフを持って待ちかまえていた男たちは海に入っていき、クジラの後頭部めがけてナイフを振り下ろす。血が噴き出す。それとは別に、留め金を持った男がクジラの背中にある息をする穴(鼻)にそれを入れる。
留め金には綱がつながっている。その綱を十数人の人たちが引っ張ると、クジラは砂浜に引き上げられる。
人々とクジラの格闘が続く。その場で血抜きをするから、海面は真っ赤に染まる。そんな一見残虐に見えるシーンを、よちよち歩きの子供が母親と一緒に眺めている。実にシュールな情景だ」
太地町のイルカ追い込み漁を告発したドキュメンタリー『ザ・コーヴ』にも同様のシーンが出てくる。追い込んだイルカたちを、小舟に乗った漁師たちが銛で突き刺す。断末魔の叫びをあげるイルカ。イルカの血で真っ赤に染まる入り江。その血の海でのたうちまわるイルカ。そして、イルカたちは力つきると白い腹部を見せながらプカリと浮かび、漁師によって次々と小舟に引き上げられていく。
同映画は撮影方法や取材方法の問題点を指摘されているが、少なくともこの屠殺シーンは捏造でもなんでもなく、明らかな事実だ。
しかも、太地町のイルカ追い込み漁は以前、もっと残酷な方法をとっていたようだ。前出の『イルカを食べちゃダメですか?』の著者によれば、「昔は致命的な刺し位置がわからず、突きまくるということもあったので捕殺方法に疑問が呈されていた」が、2000年以降は、デンマーク・フェロー諸島で開発された方法を使って、ピンポイントで急所を突くことができるようになったという。
和歌山県がウェブ上で公開している「イルカ漁等に対する和歌山県の見解」には、「2008年12月以降は、イルカが苦痛を感じる時間を短くするために、デンマークのフェロー諸島で行われている方法に改められています。この方法では、と殺時間は1/30に短縮(10秒前後)され、イルカの傷口も小さく、出血も殆どなくなりました」とある。
だが、テレビはこうした実態を一切伝えない。途中で屠殺方法を変更し、フェロー諸島の方式に変更したことについてもまったく触れていない。