「1月の終わりか2月のはじめごろ、アミューズのマスコミ担当幹部のN氏から各週刊誌にアプローチがあったようです。かなりストレートに『バッシングで困っている。助けてほしい』という要請だったようですよ。もちろん、週刊誌の側も売れ行き、広告出稿が激減している状況ですから、喉から手が出るほどありがたい企画で、ほとんどの週刊誌はこのオファーを一も二もなく受けたようです。断ったのは『週刊新潮』だけらしいですね。ただ、バッシングが起きてからもち上がった話だったため、アルバムの発売には間に合わず、1カ月遅れの配布になってしまったんですが……」(大手出版社社員)
当然、フリペの内容もかなり露骨だ。巻頭では桑田と昵懇の音楽評論家・渋谷陽一が「ピースとハイライト」を〈歌のテーマに優劣はない。世界平和を祈る歌も、女とやりたいという歌も、そのテーマにおいて同等である〉と全面擁護。「Missing Persons」を取り上げた「週刊文春」では、横田めぐみさんの両親である横田滋・早紀江夫妻にこの曲を聴いてもらい、「この曲で桑田さんが歌われているように、有名な方が拉致問題のことを歌ってくれたら……と昔から思っていました。ですから、今ようやくその願いが叶った気がします」という感想を引き出している。
「もっとも影響力がある『文春』に『Missing Persons』を振るってあたりが露骨だなと思いますよね。もともと『文春』は、闘病後に復活した際も独占密着取材を行ったりとサザンと関係は深いですが、『文春』のイケイケ路線を考えるといつ寝返るかわからない。でも、これで関係は盤石。『文春』に限らず、『ポスト』や『現代』も、しばらくはサザンのバッシング記事を掲載しないでしょうね」(前出・大手出版社社員)
実際、このプロジェクトがもち込まれた2月以降、桑田の紅白パフォーマンスに関する批判記事は週刊誌から完全に姿を消してしまった。
金をばらまいて自分への批判を押さえ込もうとするアーティストと、その金を嬉々として受けとり、一転してヨイショ記事を書き始めるメディア……。なんともうんざりするような話だが、もっと暗澹とさせられるのは、あの程度のパフォーマンスでこうした裏工作までせざるをえない日本の芸能界の構造と言論状況だ。
桑田は今回の紅白以前から、安倍政権に対してはかなり批判的な姿勢をとっていた。2009年には『桑田佳祐の音楽寅さん〜MUSIC TIGER〜』(フジテレビ系)でビートルズの「The End」の空耳カバーとして《安倍 安倍 永遠次年度トラブって 美しい国 夢》というようなフレーズを歌ったこともある。
それが今回、前述した「SWITCH」のインタビューではわざわざこんな弁明をしている。
「僕には何か特定の主義もなければ思想もありませんし、右でも左でもリベラリストでもなけりゃ聖人君子でもない」
おそらく桑田が言うように、彼自身にはなんの思想もない。しかし、欧米なら思想のないアーティストが軽い気持ちで政権批判をしたところでなんの問題にもならないだろう。政権批判に覚悟や思想を要求されるということ自体がこの国の「表現の不自由」を物語っている。
(田部祥太)
最終更新:2018.10.18 04:06