本書の中では、掃除のあとに風呂のふたが閉まっていなかっただけで「家が壊れそうな勢いでドアを締め」て一晩帰らなかった夫、夕食の品数が少ないと怒り、多く作っても「こんなにたくさん作って誰が食べるんだ、おまえ、金が余ってるのか!」と怒る夫、なんの説明もなしに数週間にもわたり妻を無視する夫など、モラハラの具体例が紹介されている。
傍から見ると異常とも思える例だが、妻自身は自分がモラハラ被害を受けていることにすら気づかないケースも多いのだという。というのも、モラハラ夫の多くの場合は「他人にどう見られるか」を非常に気にするタイプなので、人前では妻を持ち上げ、良い夫を演じることもしばしば。なにか問題が起こった際には論点をすり替えるなど弁が立つタイプなため、他人はもちろん、妻も自身も被害に気付きにくい。
さらにモラハラが表面化しないのは、妻の環境にも問題がある。
モラハラ夫の多くの場合は、妻が友人や実家族との付き合いに制限をかけたり、もしくは付き合いに不機嫌になったりするために、妻は孤立しやすい。そのためにモラハラ被害を受けていることに気づかず、相談できない環境にある。
また、モラハラの引き金になる出来事があまりに些細なことのため、妻は自分が我慢すればいいと思い続けるうちに、「普通」と「異常」の区別がつかなくなっていき、問題に気づきにくくなる。
仮に問題に気づいて周囲に相談しても、「あなたも悪いところがあるんじゃない?」「夫婦は我慢も必要よ」と言われて、自分を責めたり、問題を一人で抱え込むという悪循環が生まれる場合もあるという。
前述のバラエティ番組の発言が裏打ちしているが、他人から見ればモラハラの引き金となる出来事はとてもささやか。しかし、それが日常的に積み重なっているとしたら、被害者である妻には非常に大きなストレスになる。ましてや、無視といった不作為は証拠を取ることが難しく、表面上は穏やかな言葉を使っていても実は夫婦間では脅し文句ということも考えられるため、モラハラを他人に理解してもらうことが非常に難しいことがうかがえる。
細やかに話を聞くこと、専門機関への相談を促すことなど、周囲の人がモラハラ被害の可能性を感じたら取るべき行動はまだあるはずだ。高橋・三船の問題も、マスコミは安易に夫婦間の問題として断罪するのではなく、モラハラの実情や回避術、周囲の人の支援法などを周知してほしいものだ。
(江崎理生)
最終更新:2017.12.19 10:28