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戦争犯罪を否定する“歴史修正主義者”産経が「ユダヤ」の抗議に全面降伏した理由

 たしかに、産経が広告を掲載した書籍はユダヤ差別、歴史修正主義に満ちた謀略本だったが、広告を掲載しただけで、ここまで丁寧な対応をするというのは異例のことといっていいだろう。

 しかし、ユダヤ謀略本に対してこうした誠実すぎるほどの対応をする一方で、産経は「いわゆる謀略史観的考え」としかいいようがない歴史修正本を自社から乱発している。

 たとえば、『関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実』(工藤美代子/産経新聞出版/2009)では、通説では1923年の関東大震災直後の「朝鮮人暴動」のデマが発端となった日本人による「朝鮮人虐殺」を、同書では、摂政宮(のちの昭和天皇)の暗殺を狙っていた朝鮮独立運動家たち(「義烈団」)が大震災後の混乱につけ込んで日本国内でテロを起こしたことがきっかけだった、とする。

 テロリストたちと戦ったのが日本人で、「その殺害された者はいわずもがな『義烈団』一派と、それに付和雷同したテロリストである。テロリストを『虐殺された』とはいわないのが戒厳令下での国際常識だ」(同書)とまで主張しているのである。

 また、産経新聞社の月刊オピニオン誌「正論」も歴史を否定しまくりだ。たとえば、張作霖爆殺事件(1928年)。この事件は日本に対立姿勢を見せ始めた軍閥政治家・張作霖が乗った列車に、関東軍高級参謀・河本大作大佐らが爆薬を仕掛け、張作霖を爆殺したものだ。当初、アヘン中毒の中国人2人組を犯人に仕立てようとしたが、後に関東軍の関与が発覚。「満洲某重大事件」ともされたこの事件の真相究明を昭和天皇が陸軍出身の田中義一首相に求めるも、結局、「うやむやの中に葬りたい」と返答したために、天皇が「それでは前と話が違うではないか、辞表を出してはどうか」と激怒し、田中内閣が総辞職することになった。天皇の周辺で収拾に動いた重臣たちへの陸軍の反感が高まり、のちの二・二六事件につながっていく(『昭和天皇独白録』(文春文庫)より)。

 しかし、2011年7月号では「東京裁判史観を撃つ 張作霖爆殺の黒幕はコミンテルンだ」(加藤康男・西尾幹二の対談)では、「張作霖を実際に死に至らしめたのは、河本たちの仕掛けた爆発物ではないのではないか」として、「致命的な爆発物は列車内にあらかじめ仕掛けられていた」。実行したのは、対立する蒋介石軍やソ連、謀反を考えていた張作霖配下のグループなどという可能性を示唆している。

 それどころか、1年後の12年8月号「発掘スクープ 張作霖爆殺は『親殺し』!?」(野口優希)という現代史研究家による記事では日本軍単独犯行説を否定し、「張作霖の息子・学良が、父親の暗殺を側近らと計画していた」と、張学良とコミンテルンの謀略説を紹介するのだ。

 また、「正論」は「南京大虐殺」も否定する。1937年に日本軍が中華民国の首都南京市への攻略戦を行った際、中国軍の便衣兵(ゲリラ)、敗残兵、捕虜、非戦闘員などを殺したとされる事件だ。東京裁判では中国側は「犠牲者30万人」説を主張するが、日本の研究者の間では「3万人強」ではないか、とされている。

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