資産家でもあるという社長から「精神世界を正しく分かりやすく読者に伝える使命が我々にはあるんです」と熱く語られ、今度もすっかりこの社長に惚れ込んでしまった著者。ところが、社長はある日、三浦サンにこんなことを言い始める。
「大ニュース、大ニュースですよ。フリーエネルギーで動く製品が現実のものとなったんです!」
なんでも、フリーエネルギーとは空間に無尽蔵に存在するエネルギーのことらしい。
「人間の意識力で車を走行させたり、飛行機を飛ばすことができる可能性をじゅうぶん含んでいるのです」
「これは世界的なビッグニュースです。フリーエネルギーを使った機械と本を同時に発売すれば世界中を震撼させるほどの売れ行きになるはずです」
そして、このエネルギーに関して本を出すので、それを書いてくれという依頼をされるのだ。三浦サンが打ち合わせのため再び会社を訪れると、そこには既にフリーエネルギーを開発しているという貿易会社の人間もいた。
しかし、本の情報をもらうためになぜかその貿易会社社長宅に下宿しなければならないという。給与は30万円という悪くない条件だったので三浦サンは引き受けることにした。ところが──。社長宅で居候をはじめてみると、肝心のフリーエネルギーの仕事はまったくなし。かわりに毎日毎日、社長の家に同居していた高齢の両親の面倒を見させられたのだという。しかも、約束の月々30万円の給与は一度だけしか支払われず、本の話はそのままなぜか立ち消えになってしまった。
だが、著者はそれでも懲りない。その後も怪しいセミナーやイベントで、次次々に風変わりな団体や霊能師たちに出会っては、入れ込んで行く──。
例えばあるセミナーで、“酒井”という魔界理論を説く霊能者に「くぎづけになった」三浦サンは早速、酒井の道場に出かける。すると、
「酒井のパワーを受けると、いろんな症状や病気が改善するという。パワーを受けている最中、手のひらに熱い棒が強く押されるような感覚があった」
酒井の魔界理論とは、神界と正反対の立場にある魔界があって、それが人間に試練を与えることによって意識の向上を助けるというものらしい。なんでそれが魔界なのかよくわからからないが、三浦サンはこの話に説得力を感じ、またまた、酒井に心酔して、道場に通いはじめる。