これはけして大岡昇平が遭遇した特殊な体験ではない。飢餓の極限状況下における戦場で人肉食が横行していたことは、ドキュメンタリー映画『ゆきゆきて、神軍』(原一男監督/1987年公開)でも告発されている。この映画が教える戦争の恐ろしさは、人肉食が行われていたということだけではない。そうして戦友の屍肉を食べて生き延びたひとたちが、ごく普通の市民として戦後ひっそりと生活していたことだ。
藤原彰『餓死した英霊たち』(青木書店)では「この戦争で特徴的なことは、日本軍の戦没者の過半数が戦闘行為による死者、いわゆる名誉の戦死ではなく、餓死であったという事実である」と言明し、各戦線毎の細かなデータ分析が行われている。大量餓死を招いたのは、軍司令部が兵站の概念を欠いた無能であり、兵士の人命を軽視したからだ。
戦争推進者たちはいつも、国民を守るためにこそ戦争が必要だと声高に叫んでいる。しかし。これらの文学作品は、戦場に駆り出された国民が人間の尊厳を蹂躙され、消耗品のように扱われながら死に追いやられたことを伝えている。
国が国民を守ってくれるはずなんてないことがちょっとはわかったか。でも、こんなものじゃまだまだ足りない。明日の第3回では、もっとリアルな戦争の姿を紹介してやろう。
(左巻き書店店主・赤井 歪)
●左巻き書店とは……ものすごい勢いで左に巻いている店主が、ぬるい戦後民主主義ではなく本物の左翼思想を読者に知らしめたいと本サイト・リテラの片隅に設けた幻の書店である。
最終更新:2014.11.17 12:04