首相官邸HPより
菅義偉首相が一向にまともな説明をしないままの、日本学術会議の任命拒否問題。任命拒否された6人のうちの1人である宇野重規・東京大学教授は、今回だけでなく2018年の補充人事でも任命拒否されていたことが明らかになった。
周知のように、宇野教授は日本における政治思想史の権威だが、特定秘密保護法や安保法制に反対の声をあげていた。政権批判を封じ込めようとする「学問の自由」への侵害が安倍政権時代から起きていたことがハッキリしたが、そんな宇野教授が11月14日付朝日新聞の読書面に寄稿した書評が「痛烈な安倍前首相・菅首相批判だ」と話題になっている。
「無法で無能な統治者は自滅する」と題されたその文章は、こんなふうに始まる。
〈「混乱の時代に頭角を現し、最も卑しい本能に訴え、同時代人の深い不安を利用する人物」、それが暴君だ。「統治者としてふさわしくない指導者、危険なまでに衝動的で、邪悪なまでに狡猾で、真実を踏みにじるような人物」であるにもかかわらず、国全体がそのような暴君の手に落ちてしまう。暴君はあからさまな嘘をつくが、いくら反論されても押し通し、最後は人々もそれを受け入れてしまう。ナルシシストである暴君は法を憎み、法を破ることに喜びを感じる。〉
たしかに、〈暴君はあからさまな嘘をつくが、いくら反論されても押し通し、最後は人々もそれを受け入れてしまう〉などというくだりは、森友・加計問題における安倍前首相や日本学術会議問題における菅首相のやり口を想起させる。
もちろん、宇野教授自身が〈これは現代の話はない〉と続けているように、この文章は米・ハーヴァード大学教授でシュークスピア研究の世界的大家であるスティーブン・グリーンブラット氏の著作『暴君 シェイクスピアの政治学』(岩波新書)の書評であり、上述の部分もシェイクスピア作品に登場する暴君を解説したものだ。
だが、そのグリーンブラット氏の『暴君』じたいが、『ヘンリー六世』『リチャード三世』『マクベス』『リア王』といったシェイクスピア作品に登場する暴君を分析・批評しながら、トランプ大統領に代表される現代のポピュリズム的独裁者の本質とそれを生み出す社会の構造を解読する論考になっている。