日本人炭鉱婦も朝鮮人に対する差別的待遇、虐待、憲兵によるリンチを証言
差別的待遇を証言しているのは、朝鮮人徴用工だけではない。長崎県・日鉄鉱業池野炭鉱の炭鉱婦だった女性は「炭坑労働者の朝鮮人は、『半島』『半島人』と呼ばれ、それはもうとてもかわいそうでした。今思い出しても、涙が出ます」と振り返っている(長崎在日朝鮮人の人権を守る会・編『原爆と朝鮮人 長崎県朝鮮人強制連行、強制労働実態報告書 第5集』)。
「食べ物がなくて、腐ったみかんを拾って食べている朝鮮人を、憲兵がひどくなぐっているのを見たことがあります。どんなに体の具合が悪くても、休ませなかった。あるとき、四〇過ぎの朝鮮人労務者が、とても疲労がはげしくて『少し、上がらせてくれ』とたのんだが、聞き入られなかったので、風洞の中へ入った。それを見つけて引っぱられたが、一晩で顔の形相が一変してしまいました。それははげしいリンチを受けたからだと思います」
元炭鉱婦の証言によれば、重い箱を頭から被って、17、8歳くらいの朝鮮人の新人が即死した事件もあったという。
「入坑して二週間目ぐらいの子でした。そのとき、上の人たちは、『朝鮮人の一人や二人死んだって、筆で書けば事はすむ。日本人(報国隊)だったら、指先一つ切ってもうるさいが……』といっていました。死んだその子の顔は、今でも覚えています。本当に朝鮮人は無理無体でした。みんな一生懸命に働いていたのに」
『反日種族主義』は、朝鮮人徴用工たちについて「自由意志で日本へ出稼ぎに出た朝鮮人」「待遇も日本人と変わりなく、民族差別はなかった」と誘導するが、これがいかにデタラメかがわかる。繰り返すが、朝鮮人徴用工の「強制連行」や「強制労働」を証明する史料や証言は山ほどあるし、当局の担当者の証言や文書、あるいは日本の炭鉱での悪環境に耐えきれなくなった朝鮮人が暴動を起こしたという公的記録も残っているのだ。
文藝春秋のHPでは〈本書がいわゆる嫌韓本とは一線を画すのは、経済史学などの専門家が一次資料にあたり、自らの良心に従って、事実を検証した結果をまとめたものであるということだ〉などと大見得を切っているが、はっきり言って、都合のよい一部の史料だけを恣意的に使っているだけであり、「トンデモ本」の類とみなすべきだろう。
しかも、勘の良い読者はもうお見通しだろうが、この『反日種族主義』なる本、その主張の多くは安倍政権の立場と極めて親和性が高い。