『関東大震災「朝鮮人虐殺」はなかった!』に潜む“7つの恣意的トリック”
いかがだろう。『なかった』の著者である工藤夫妻は長岡判事の手記を読んだはずだが、上のくだりはまったく引用されていない。“根拠として使った”のは、実際には直接目撃していなかった警官を「現場を実見した巡査をご紹介しましやう」と言った事務長の話だけ。意図的な切り取りは明らかだろう。加藤氏はこう断じている。
〈つまり、この長岡判事の手記には「朝鮮人暴動」の目撃証言は出てこない。反対に、「朝鮮人暴動」の流言を信じた自警団による暴力と混乱を目撃した記録が、この手記の本筋なのである。ところが工藤夫妻は、いわば手記の導入部である下船前の噂話の部分だけを引用することで、この手記を「朝鮮人暴動」の記録に仕立て上げて、内容を正反対にねじまげているのだ。〉(『トリック』)
このように、加藤氏は『なかった』に潜んでいる“7つの恣意的トリック”を丸裸にしている。他の虚偽の手法についても是非、『トリック』を読んで確かめてみてほしい。その悪質さに呆れるばかりでなく、怒りさえこみ上げくるだろう。
繰り返すが、虐殺否定論の“タネ本”は、“あった虐殺をなかったと騙すため”あるいは“なかった暴動をあったと偽るため”に、荒唐無稽なことを大胆にやってのけた。だが、それゆえに、ネット上の「朝鮮人虐殺はなかった」デマを爆発的に広め、また、産経新聞や極右政治家に取り上げられたことで現実社会を深く浸食していった。
加藤氏も同書で指摘しているが、たとえば、『ちびまる子ちゃん』にまで圧力をかけたことで知られる自民党の赤池誠章参院議員は、自身のブログで『関東大震災 朝鮮人虐殺の真実』を紹介、〈労作、好著〉と絶賛しながらこう述べている。
〈「朝鮮人虐殺」という自虐、不名誉を放置するわけにはいきません。関東大震災の教訓として、防災問題はもちろん、テロ対策の面からも学ぶ必要があります。政府は改めて事実調査をすべきだと思いました。〉(2014年9月1日)