『トリック 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』(ころから)
1923年の9月1日に発生した関東大震災から、きょうで96年を迎えた。震災のなか、「朝鮮人が暴動を起こした」「井戸に毒を入れた」「火をつけて回っている」などのデマが流れ、日本人自警団らによって多くの朝鮮人たちが暴行・殺害された“朝鮮人虐殺”。本サイトでは毎年、当時の膨大な証言や史料、関連書籍などをもとに、その悲劇の歴史を振り返ってきた。
その一番大きな動機は、「朝鮮人虐殺はなかった」「朝鮮人が暴動を起こしたのは本当だ」などといった、史実を否認する歴史修正主義が蔓延っているからだ。
ネットのなかの閉じた話ではない。この“虐殺否定デマ”は、現実の政治にも大きな影を落としている。たとえば、小池百合子都知事は、就任以来3年連続で、それまで墨田区の横網町公園でおこなわれる朝鮮人犠牲者追悼式典へ送付されてきた追悼文を送らない決定をした。小池知事は「関東大震災という大きな災害で犠牲になられた方々、またさまざまな事情で犠牲になられた方、すべての方々に対しての慰霊という気持ちには変わりはない」などとはぐらかしながら、朝鮮人虐殺への言及を避け続けている。
振り返れば、小池都知事が初めて朝鮮人犠牲者への追悼文を拒否した2017年、都議会では3月、自民党の古賀俊昭議員が『関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実』(工藤美代子/産経新聞出版)という本をあげ、追悼碑を問題視し撤去を求めるということがあった。
古賀都議は「朝鮮人活動家」を念頭に「現に震災に乗じて凶悪犯罪が引き起こされたことは、具体的に事件としてたくさん報道されています」と延べ、「こうした世相と治安状況の中で、日本人自警団が過敏になり、無関係の朝鮮人まで巻き添えになって殺害された旨の文言こそ、公平、中立な立場を保つべき東京都の姿勢」と主張した。つまり“状況を踏まえれば流言飛語はしかたがない”として、虐殺の加害性を矮小化したのである。
また、本サイトでも当時レポートしたように、同じ2017年の式典当日には同じ横網町公園で、在特会とも関連する歴史修正主義市民団体「そよ風」が取り仕切る“朝鮮人虐殺否定”の集会が開かれ、地元の大瀬康介・墨田区議らが出席。大瀬区議は本サイト記者の直撃に、「朝鮮人の暴動も朝鮮人が火をつけてまわったのも事実」「自警団がやったのは虐殺ではなく正当防衛という認識」と答えた。ネットで蔓延る典型的な虐殺否定論のロジックだ。
しかし、確実に日本社会を蝕んでいる「朝鮮人虐殺はなかった」の否定論は、単なる思い違いやミスによって生まれているのではない。人を騙す目的をもって仕掛けられたトリックである──。そう指摘するのは、6月に発売された『トリック 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』(ころから)だ。
著者は『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから)で高い評価を受けた加藤直樹氏。新刊『トリック』ではあらためてネット上に流通している否定論を分析・検証し、史料を交えながらわかりやすく解説したうえで、その虚偽がいかに意図的に作り出されたものかを暴いている。