極右議員やネトウヨは当時の誤報を元に「朝鮮人の暴動は実際にあった」と
その一例が「朝鮮人の暴動は流言飛語ではなく実際にあった」という、前述の都議や区議らも主張したデマだ。
まず、ネット上では鬼の首をとったかのように「朝鮮人暴動」を伝える当時の新聞記事画像がアップされているが、これらのほとんどは震災直後のものであり、混乱の最中の誤報であることが確定している。
実際、震災直後の新聞では、風説を裏取りなしに記事化した結果、「富士山噴火」「伊豆諸島沈没」「山本首相暗殺」といった荒唐無稽な誤報・虚報が氾濫したが、地震発生からおよそ一週間後には、「鮮人に関する流言は無根」「鮮人の爆弾 実は林檎 呆れた流言飛語」というふうにデマであったと報じる多数の記事などによって否定された。
もちろん、行政機関の文書でも「朝鮮人暴動」は否定されており、加藤氏はそのことをいくつも例示している。たとえば震災発生から約3カ月後の司法省による「震災後に於ける刑事事犯及之に関連する事項調査書」(1923年11月)には、「朝鮮人暴動」の流言について「一定の計画の下に脈絡のある非行をなしたる事跡を認め難し」と記されている。
ほかにも、神奈川県警備隊の司令官であった奥平俊蔵中将は回想録で、朝鮮人による強盗や放火、井戸に毒を投げ込んだなどの情報について「傍々これを徹底的に調査せしに、ことごとく事実無根に帰着せり」と書いている。官の研究機関による調査や警察当局の記録にも「朝鮮人が放火した」とか「井戸に毒を入れた」というような報告は皆無だ。
そしてなにより、「朝鮮人が襲撃してくるらしい」「井戸に毒を入れたらしい」といった風説を聞いたという同時代の証言は山ほどあるが、そうした「朝鮮人暴動」を直接目にしたり立ち会ったという証言は、一切、存在しないのである。
ようするに、虐殺否定論者は震災直後の新聞記事を最大の根拠にするが、それは、誤報を「事実」かのように偽り、その他は全部無視することによって、「朝鮮人暴動は事実」という虚説に援用しているにすぎないのだ。
『トリック』で加藤氏は、こうした否定論の仕組みを明かしながら嘘を暴いていくのだが、同書の最大の特徴は、そこからさらに踏み込むところにある。先に触れたように、この否定論のデマが“いかに意図的につくりだされたか”までをも証明してしまうのだ。