津原泰水「ヘイトスピーチへの抵抗さえ反日的とされる情けない状況に慣れてはいけない」
本サイトの取材に幻冬舎総務局担当者は「津原氏に『さすがにこれ(=『日本国紀』批判ツイート)は困ります』と伝えたのは担当編集者個人の判断」と言うが、津原氏の証言や保管するメールを見る限り、より上層部からの指示、あるいは何らかの“忖度”があったのはほぼ確実だろう。津原氏も「今にして思えば、正月明けに連絡があった時点で、結論はくだっていたのだという気もします」と頷く。
周知の通り、『日本国紀』をめぐっては、コピペ問題等で世間から大きな批判をあびるなか、昨年末、安倍首相がFacebookで〈年末年始はゴルフ、映画鑑賞、読書とゆっくり栄養補給したいと思います。購入したのはこの三冊〉との文言とともに画像をアップ。完全にPRに加担していた。それは『日本国紀』が“安倍応援団”によって送り出されたものであるうえに、内容も「日本はアジアを侵略していない」などと先の戦争を肯定しながら「悲願」の改憲を猛プッシュする内容であることと無関係ではないだろう。
いま、幻冬舎の件を“告発”した津原氏のTwitterには “安倍応援団”のネット右翼アカウントが殺到し、炎上させようと攻撃をしかけている。本サイトが津原氏に、“日本国紀批判”をめぐる幻冬舎やネトウヨの過剰反応について聞くと、少し考えてからこう語った。
「時期的に安倍政権になってから、たとえば嫌中韓感情ですね、そういったネガティヴな感情を正当化する思考のテンプレートが広まり、そこから逸脱するのを恐れる層が拡大したのは感じています。物事を個別に見ることなく、ヘイトスピーチへの抵抗さえ、反日的、左翼的、とテンプレート思考して憚らない人間に満ちた、情けない国になってしまった。その状況に慣れさせられてはいけない、見苦しいものには見苦しいと反応するべき、安っぽいナショナリズムに酔っていては何も見えなくなりますよ、と、そういったことは当然、僕はTwitterでも言いますよ。そんな発言さえできないのなら、何のためのSNSですか。商売のためのツールなんですか? 違いますよ。借り物でも真似事でもない、言論のためにあるのですから」
いずれにしても、確かなことがひとつある。出版社が権力者に対して擦り寄れば、健全な言論環境は破壊される。政権応援団への批判がタブーにされることは、すなわち、政治権力批判がどんどんタブー化しつつある現実の射影なのだ。
(編集部)
最終更新:2019.05.17 09:29