先日、リテラにジャーナリスト・山岡俊介氏による「安倍首相宅放火未遂事件『18年目の真実』」が掲載されたが、あのレポートが指摘していたのは、安倍事務所が暴力団につながる人物に選挙妨害を依頼していたという話だけではなかった。前後編を通じて浮かび上がっていたもうひとつの疑惑は、安倍首相と山口県警の癒着だ。安倍事務所が放火されるという事件が起きたにもかかわらず、山口県警は捜査に動かなかった。事件の3年後、主犯で元建設会社社長のブローカーの小山佐市氏が逮捕されたが、捜査を主導したのは、暴力団・工藤会の一斉摘発をした福岡県警で「一応、メンツを立てるために、山口県警との合同捜査ということにしていただけ」(山岡氏記事の前編)だったという。
山岡氏は、「山口県警、下関署は父親(安倍晋太郎・元外務大臣)の代から影響力が非常に強い」「当時の安倍事務所の筆頭秘書・竹田力氏が山口県警警視出身」という関係から、山口県警が「立件したら安倍事務所の選挙妨害が明るみに出る」と忖度して、この事件を闇に葬り去ろうとしていた可能性を指摘していた。
たしかに、両者の関係を考えれば、その可能性はありうるだろう。
実は、筆者も安倍首相と山口県警の癒着構造をうかがわせる事件を取材したことがある。それは、安倍首相と密接な関係を持っていた山口県の建設会社「ナルキ(旧・畑原建設)」をめぐる談合疑惑だ。
第二次安倍政権が誕生した翌2013年、山口県岩国市の錦川上流にある「平瀬ダム」の建設が始まった。民主党政権時代に凍結されていた総事業費750億円のダムが安倍政権誕生と共に息を吹き返したのだ。そして、その本体工事を受注したのが「清水建設・五洋建設・井森工業・ナルキ共同企業体(JV)」だった。
ところが、このJVに参加している「ナルキ」は当時、安倍首相直系の県議会議員だった畑原基成氏(2017年に死去)の一族が創業者の建設会社で、同社の平瀬ダム工事受注をめぐって、不正・談合を告発する文書が出回ったのだ。
告発の内容は、この平瀬ダム工事では、ナルキを受注させるために、入札参加資格要件が以前よりも緩和されたというもの。過去の3件のダムの入札では「総合評定値」が1000点以上でないと参加できなかったが、平瀬ダムの入札の場合は900点に引き下げられて、「総合評価値」920点の「ナルキ」でも落札できたという。県議会でも、共産党の藤本一規県議(当時)がこの告発文書を入手し、追及した。
しかし、こうした追及があったにもかかわらず、マスコミも大きく報道することはなく、捜査機関によって事件化されることもなかった。地元でも、事件の存在すら誰も知らないまま、疑惑はたんなる疑惑のまま闇に葬り去られてしまっていた。
ところがその3年後の2016年、この事件をめぐる山口県警の捜査資料が流出する。捜査資料によって、実際には捜査機関は「ナルキ」の談合の捜査に着手しており、官製談合容疑で、畑原県議や県職員を取り調べていたことがわかったのだ。
筆者も捜査資料を入手したのだが、その資料は捜査当局による2013年12月から翌年の5月までの約半年間にわたる動きが克明に綴られていた。
中でも注目すべきは談合疑惑の核心部分が記載されていた「平瀬ダム建設工事にかかる贈収賄容疑事件の提報について」(2014年5月26日)との文書だ。そのなかには情報提供者から県警が聴取した内容が克明に記されていたからだ。