安倍政権が狙う「解雇の金銭解決制度」は、企業側の経済的負担を軽くするもの
ところが、会社は、たとえ第1次解雇が無効だとしても、解雇撤回が成立するから、支払うべきバックペイは解雇日から撤回までの約1カ月分の給料にとどまると主張した。当方は、解雇は単独行為であり、意思表示到達後は原則として撤回できず、労働者が具体的事情の下、自由な判断によって同意した場合に限り撤回しうるとの通達を引用した上で、Aさんは当初より、解雇撤回、文書による謝罪、バックペイ及び慰謝料の支払いを包括して求めており、解雇撤回のみ切り離して同意したことはない旨主張した。
また、会社が解雇権を濫用して労働契約上の信頼関係を破壊しておきながら、謝罪や労働社会保険資格の回復手続等の信頼関係を回復する真摯な努力を何ら行っていない以上、解雇撤回に対して自由な判断による同意を行う前提状況が存在しないことも指摘した。
労働審判委員会は、当方の主張を支持し、解雇撤回は成立していないこと(当然、第2次解雇も無効)を前提として、解決金の支払い及び解雇撤回を主たる内容とする調停が成立した。
安倍政権は「労働者の泣き寝入りを防ぐ」等の看板を掲げて「解雇の金銭解決制度」の法制化を進めようとしている。しかし、多くの解雇事件は適切な水準で金銭的に解決しており、裁判で解雇無効となれば解雇無効判決までのバックペイが払われるから(月給30万円で2年かかったとすれば30万円×12カ月×2年=720万円)、現行法上労働者が泣き寝入りしているというのは完全に嘘である。
「解雇の金銭解決制度」の狙いは、無効な解雇でも会社が払う金に上限(月給6カ月~1年分等)を設けて会社の経済的負担を軽くすることにあり、労働者にとっては百害あって一利なしである。
【関連条文】
解雇の効力 労働契約法16条
解雇後の賃金請求権 民法536条2項
解雇撤回の可否 民法540条2項
(光永享央/光永法律事務所 http://www.mitsunaga-roudou.jp)
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ブラック企業被害対策弁護団
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この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。
最終更新:2018.07.13 12:34