國母和宏、里谷多英、安藤美姫…バッシングを受け続けた選手たち
その後の國母は、バックカントリースノーボードのボーダーとして世界的な名声を得たり、コーチとして平野歩夢や平岡卓のソチ五輪のメダル獲得に大きく貢献するなどしている。
國母がバッシングを受けたのは、まだ競技で成績を残す前だが、そのような素行不良を理由にしたくだらないバッシングは、たとえオリンピックで結果を残したとしても、なんら変わることなく浴びせかけられる。スキーモーグルの里谷多英がそうだった。
里谷は長野オリンピックにて、日本人女子としては冬季オリンピックで初めてとなる金メダルを獲得したが、優勝直後にシャンパンを公然と飲んでいたことと、表彰式にて国旗掲揚時に帽子を脱がなかったことがそれぞれ問題視され、大バッシングを受ける。
彼女の場合は酒にまつわるバッシングが多くまとわりつき、05年には「週刊新潮」(新潮社)で酔っ払った末に夫に暴力をふるっていたことが報じられ、同年に「週刊文春」(文藝春秋)にて、六本木のクラブのVIPルームで白人男性と性行為におよんだうえに暴れた件を書き立てられた。これに関しては書類送検となっているが、後に起訴猶予処分となっている。
フィギュアスケートの安藤美姫もそういった執拗なバッシングを受け続けた被害者だ。
メディアに出始めた当初は女子高生スケーターとしてもてはやされた彼女だが、トリノオリンピックでの惨敗後は執拗なまでにバッシングを受け続けた。
特に、13年に女児を出産してからは、彼女が未婚のシングルマザーで、父親が誰なのかを公表しなかったため、メディアは連日のように騒ぎ立て、父親暴きに躍起になった。
彼女はその年、ソチオリンピック出場を賭けてシーズンを戦ったが、それに対しても、「産むだけ産んで、まだまだお母さんが必要な時期の子供を置いてオリンピックって、自分のことしか考えていない」や「父親がいないなんて、子供がかわいそう!」、「他の五輪出場候補選手は、脇目も振らずに練習してる。遊んでた安藤なんかが出場したら、その人たちがかわいそう」といったバッシングが投げつけられた。
子どもを産むことは「遊んでた」などではないし、子どもを抱えながらオリンピックを目指す選手だって他にもいるはずだが、目立つ彼女だけが叩かれる。とにかく、品行方正に競技だけに取り組んでいない(ように見える)選手に対しては果てしないバッシングが浴びせかけられるのだ。そんなものは肝心要の競技にはなんの関係もないのにも関わらず。
しかも、こうしたバッシングは、過剰な道徳主義というだけでなく、スポーツ文化という視点からみても的外れなものだ。
バンクーバー五輪でファッションが攻撃対象となった前述の元スノーボード代表・國母和宏が最近になって、そのことを明らかにしている。