『心が叫びたがってるんだ。』の元となった岡田麿里の引きこもり体験
また、『心が叫びたがってるんだ。』(以下、『ここさけ』)の主人公・成瀬順は、幼少時に自分のおしゃべりがきっかけで父の不倫を母に悟らせてしまい、結果として両親は離婚。そのトラウマから声を出して話そうとすると腹痛に襲われるようになってしまう。一応高校には通っているものの、一言も話さないので当然友だちもおらず、クラスメイトからはのけ者にされている。
この2つの作品に共通する「ひきこもり」というテーマは、実は脚本を務めた岡田麿里の実体験を色濃く反映させたものだった。彼女の自伝『学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで』(文藝春秋)では、なぜひきこもる学生生活を送ることになったのか、そしてどうやってそこから抜け出すことができたのかを赤裸々に綴っている。
彼女がひきこもり生活に突入し始めたのは小学校高学年の頃だった。きっかけは、いじめ。もともと、運動が得意でなく、思ったこともあまりはっきり口にできない性格の彼女は、小学校低学年のときから、いじめやからかいのターゲットにされていた。
〈教室を歩けば、横から足を出されて転ばされそうになったり。キキララの可愛い鉛筆を学校に持っていけば、「交換してあげる!」と、キャンディ・キャンディのばったもんの謎女子が描かれた、ちびた鉛筆と無理やり交換させられたり。ひどい時は、「もらってあげる!」と無理やり取り上げられたり。体育の授業から教室に戻って来ると、クラスメイトの筆箱やら理科の教材やらが私の机の中にぎっしり入っていて、「麿里ちゃんがどろぼうした」と糾弾されたこともあった〉
とはいえその後、身の処し方を覚えた彼女はそういったいじめのターゲットにもされにくくなっていく。しかし、小学校5年生になると、また状況が変わる。思春期に入り始めるこの時期、クラスメイトの関係は小学校低学年のときとはまた違う複雑さをもち始めていた。
〈私はクラスでも目立たないグループに所属していたのだが、そこにもきっちりリーダー格がいた。リーダーは突然、「○○ちゃんと喋っちゃ駄目」と皆に号令をかける。ターゲットに選ばれれば、休み時間も一人になり、こそこそとあることないこと悪口を言われる。それは持ち回りでやってくるので、じっと待てば嵐が収まるのはわかっていた。それでも、いつ自分の番がくるだろうと緊張しながら過ごす日々はきつく、それまで月に一、二回だった休みが週に一、二回になった〉