東京五輪を控えるなか、差別根絶のために今後取り組むべき課題とは
Jリーグも、FAREの差別監視プログラムを導入するなり、欧州のサッカー界で活動する、サッカー選手が反差別のロールモデルとなるような学習プログラムを推進する非営利団体「KICK IT OUT」のようなカリキュラムをなんらかの形で導入するようなことも必要になるかもしれない。
このようなことまでしなければならないサッカー界に対して、あたかもサッカーばかりが差別事件を起こしているかのようにとらえる人もいるだろう。しかし、それは大きな間違いだ。スポーツ評論家の玉木正之は次のように言う。「野球や相撲などでも外国人への中傷はある。サッカーばかりで目立つのは、サッカー界が世界的に人種差別撤廃に本気で取り組んでいるから」と。実際、大相撲で外国人力士に対して心無い差別ヤジが飛んだことが問題になっても日本相撲協会は何も取り組むことはなく、ファンもそれを見逃している現状だ。むしろ欧州の人権意識を欧州サッカーの情報を通じて知らず知らずに学んでいったサッカーファンやFIFAを通じて差別撲滅に取り組むサッカー界が、自浄作用として差別問題に取り組んでいるという側面を決して忘れてはならないだろう。
浦和レッズの“JAPANESE ONLY”の横断幕の問題が発生したとき、Jリーグは無観客試合というJリーグ始まって以来の極めて重い処分をレッズに下し、当該サポーターグループも無期限出入禁止などの処分を受けた。このことは社会にむけて、サッカーは差別を許さないという強いメッセージを発することができたはずだ。今また日本のサッカー界は、ナチズムを断固として許さないという強い意志を示し、具体的なプログラムを導入することによって、日本社会に強いメッセージを発することができる立場にある。サッカーが人権意識の高い欧州とつながっているというのは強みになるはずだ。そして、それを成し遂げられたときこそ、スポーツは社会のロールモデルだということができるのだ。
(清 義明)
清 義明 (せい よしあき) フリーライター。サッカーにおけるナショナリズムや差別の問題を多面的に扱ったノン・フィクション『サッカーと愛国』(イースト・プレス)で、2016年のミズノスポーツライター賞とサッカー本大賞を受賞。
最終更新:2017.12.01 12:35