ナチスに無自覚・無批判なのは決して日本サッカー界だけの問題ではない
「こういうことがわからないというのは日本人だから仕方ないのかな、と思うけれど……」
オロウィッツはあきらめにも近い口調である。
そのオロウィッツが、ナチスのエンブレムを使うガンバ大阪のサポーターを告発する書き込みをすると、心ない誹謗中傷が当のガンバサポーターの一部から浴びせられたという。「ボクはもっと大人になって黙っているべきだったのかもしれない」ともいう。しかし、それは間違いだ。ユダヤ系の彼には声を大にして日本社会に訴えかける権利がある。
前述のアイドルグループのナチス風衣装の一件でも、「ナチスの衣装でなにが悪いのか」「ここは日本だ。ナチスは関係ない」といった声がネットでは渦巻いた。このことからもわかるように、日本におけるナチスに対する無理解……というかナチスに迫害された立場の人間に対する理解が足りないことは、なにもサッカーや芸能界のみならず、日本社会全般に蔓延しているものなのだ。
麻生太郎財務大臣による「ナチスに見習ったらどうかね」という発言があったのもまだ記憶に残る話だろう。この発言の趣旨がいかなるものであろうと、ナチスを肯定するような発言やファッションを含めて、世界的にはタブーなことをもっと知るべきなのではないか。
インターネットは世界の情報の流通速度を飛躍的に高め、日本の問題はすぐさま世界に伝わる。そのときに、日本のイメージダウンは避けられない。日本にも多くの在日外国人がいて、これは増えることはあれど減ることはない。むしろそれが前提の社会として考えなければならないはずだ。もちろんそれは、政治・思想・宗教の話はタブーとするような事なかれ主義なのではなく、明確にナチスの差別問題とジェノサイドの歴史認識の問題と捉えねばならない。
Jリーグの村井満チェアマンは、このガンバ大阪のナチス旗の問題について2014年におきた“JAPANESE ONLY”の一件を引き合いに出してコメントした。
「私がチェアマンに就任した2014年に『ジャパニーズオンリー』があって、あの差別問題だけでなく、いろいろな政治的メッセージとか、さまざまなことをケアしなければいけないとあのときに確認しあった」
あの時の対応は、差別問題に強い決意で立ち向かえなかった浦和レッズに対して、逆にすばやいアクションで強い措置に出たJリーグは関係者からは評価された。しかし、結局は繰り返しになってしまったことも否めない。
一方で、翌年、黒人選手を差別するともとられかねない行為をサポーターが行った横浜F・マリノスは、約2年間にわたり法務省の人権擁護局のテキストを使いながらクラブ主催の反差別の教育プログラムをサポーター対象に行った。