しかも気持ち悪いのが、番組が問題の張本人の一人である「軍事ジャーナリスト」の井上和彦を徹底してかばっていたことだ。井上は、1月の放送で「高江緊急調査」と題して沖縄へ向かったものの、名護署前で反対運動中に不当逮捕された山城博治氏の解放を求めるデモ(なお、番組ではその事実すら伏せていた)を遠くから眺めただけで、「このままだと危険と判断 ロケ中止」なるテロップを打ち出してまったく取材をしなかった。また、高江のヘリパッド建設反対運動についても、高江まで直線距離でも約25キロメートルも離れた名護市の二見杉田トンネルの前で井上は「このトンネルをくぐると高江」「このトンネルの手前で足止めをくってる」などと言って立ち止まり、ナレーションで「反対派の暴力行為により地元の住民でさえ高江に近寄れない状況」と説明し現場取材を一切しないまま引き返した。それでいて、スタジオでは「とにかく(反対運動には)韓国人はいるわ、中国人はいるわ、なんでこんな奴らがと沖縄の人は怒り心頭になってる」としたり顔で言いふらしていた。
こういう人間が「軍事ジャーナリスト」なる肩書きで幅を利かせている極右論壇のヤバさも相当だが、しかし今回の『特別編』で井上はその杜撰な「現地調査」を詫びる素振りはまったくなし(いつもと比べてややシュンとしてはいたが)。しかも、番組の最後に須田慎一郎から「井上さんがあのときの取材で極めて誠実にニュートラルにされていたということが、今回の特集で検証されたんじゃないかなと。その点だけはちゃんと言っとかないといけないと思うよ」と慰められると、「……いや、感極まって」などと言葉を詰まらせた。まったくの茶番である。また、同じく番組の最後には、経済評論家の上念司が「今回『ニュース女子』で取り上げた内容は、私はネットを通じてほとんど知っていたことですし」と、ドヤ顔でネトウヨそのもののセリフを吐いていた。
なお、「週刊金曜日」及びインターネット報道メディア「IWJ」の報道(外部リンク:http://iwj.co.jp/wj/open/archives/356140)によれば、井上は「双日エアロスペース」という防衛装備品(武器)の輸入・販売会社の正社員だという。つまり、井上にとって基地問題は自身が所属する会社の利益と直結していてもおかしくはないのだ。防衛関連企業の社員であることを伏せ、「ジャーナリスト」を名乗り基地反対派を貶めるデマを垂れ流す……。こんなことが許されるのか。
いずれにせよ、指摘された数多の問題点について反省するどころか、むしろ完全に開き直り、それどころかヘイトデマを増幅させた『ニュース女子 特別編』。さしずめ“居直り強盗”だが、この『特別編』公開に関してはもうひとつ、気になる点がある。それは、なぜレギュラーである地上波での放送ではなく、ネット配信のみだったのか、ということだ。
もともと『ニュース女子』はDHCシアターと、『そこまで言って委員会NP』(読売テレビ)の制作会社として知られるボーイズが共同で制作し、地上波放送局であるMXが考査にかけたのちに毎週月曜日に放送する、いわゆる“持ち込み番組”。しかし、2月10日にBPOの審議入りが決定したあと、2月27日に発表したMXの見解では、〈再取材、追加取材をもとに番組を制作し、放送致します。調査及び取材を丁寧に実施するため、数か月の制作期間を経て放送することを予定しています〉とされていた。つまり、本来であれば「検証番組」が放送されるのは数カ月先であったはずなのだ。
ところが3月5日、琉球新報が〈沖縄の米軍基地反対運動について再取材した番組を13日に東京メトロポリタンテレビジョン(東京MX)で放送する。(略)DHCシアターから番組制作の委託を受けている制作会社ボーイズ(大阪市)が明らかにした〉と報道。するとMXは3月7日、ホームページ上で〈そのような予定はございません〉と否定。〈現在BPO放送倫理検証委員会で審議中のところであり、当社は審議に誠意をもって対応しております。また、独自で再取材を行った番組を放送する方向で進めております〉とした。