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村上春樹が新作『騎士団長殺し』に込めたメッセージとは? 昨年末に語った歴史修正主義批判との関係は

 具体的な名を挙げて明言はしていないものの、この村上のスピーチで指されているのは、大統領選で排外主義を標榜していたドナルド・トランプ大統領候補(当時)や、歴史修正主義を貫く安倍晋三首相、そして彼らを支持する人々のことであることは間違いないだろう。

 実際、日本の新聞や通信社は〈村上春樹氏、授賞式で「影」を語る〉(朝日新聞)、〈「影」と共に生きよ=アンデルセン文学賞の村上春樹氏〉(時事通信)などとしか報じなかったが、海外メディアは「ハルキムラカミがゼノフォビアに警鐘」とはっきり報じていた。

 しかも、村上は以前にも歴史認識の問題で現政権の振る舞いを批判的に語ったことがある。15年4月に共同通信が配信し、毎日、東京、神戸、西日本新聞など、複数の新聞社に掲載されたロングインタビューのなかで村上はこのように語っている。

〈ちゃんと謝ることが大切だと僕は思う。相手国が「すっきりしたわけじゃないけど、それだけ謝ってくれたから、わかりました、もういいでしょう」と言うまで謝るしかないんじゃないかな。謝ることは恥ずかしいことではありません。細かい事実はともかく、他国に侵略したという大筋は事実なんだから。〉

 これだけではない。11年にスペインのカタルーニャ国際賞授賞式で行われたスピーチで村上は、東日本大震災と原発事故に触れつつ、人間の生活を犠牲にしてもとにかく効率と経済的利潤を追い求める新自由主義的価値観を批判していた。

〈(福島原発の事故は)我々日本人が歴史上体験する、(広島・長崎の原爆投下に次ぐ)二度目の大きな核の被害です。しかし今回は誰かに爆弾を落とされたわけではありません。私たち日本人自身がそのお膳立てをし、自らの手で過ちを犯し、自らの国土を損ない、自らの生活を破壊しているのです。
 どうしてそんなことになったのでしょう?(中略)答えは簡単です。「効率」です。efficiencyです。原子炉は効率が良い発電システムであると、電力会社は主張します。つまり利益が上がるシステムであるわけです。また日本政府は、とくにオイルショック以降、原油供給の安定性に疑問を抱き、原子力発電を国の政策として推し進めるようになりました。電力会社は膨大な金を宣伝費としてばらまき、メディアを買収し、原子力発電はどこまでも安全だという幻想を国民に植え付けてきました。
(中略)
 まず既成事実がつくられました。原子力発電に危惧を抱く人々に対しては「じゃああなたは電気が足りなくなってもいいんですね。夏場にエアコンが使えなくてもいいんですね」という脅しが向けられます。原発に疑問を呈する人々には、「非現実的な夢想家」というレッテルが貼られていきます。
 そのようにして私たちはここにいます。安全で効率的であったはずの原子炉は、今や地獄の蓋を開けたような惨状を呈しています。〉

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