可愛いおっさんが棒読みしてるみたいな歌。いろいろ意味不明すぎて、にわかには想像しがたいが、クドカンも吹石の歌について、こんな証言を始める。
「僕、映画の『ゲゲゲの女房』で吹石さんと夫婦役だったんですけど、キャンペーンで大阪に行った時に控え室が隣り合わせで、吹石さんがメイクさんか衣装さんと二人で、ずっと昔の歌謡曲を歌ってるのが聞こえたんですよ」
「ヘタやろ?」とたたみかける鶴瓶に対し、クドカンも「ヘタっていうか、なんかすごく楽しそうでした(笑)」と、ヘタであることは否定しない。
吹石といえば、ユニクロのCMでも披露した抜群のプロポーションが有名で、あとは性格が良さそうということくらいしか、とくにこれといった印象をもっていない人も多いかもしれない。しかし、実は吹石の歌唱力は、前々からネットや一部ファンの間では、半ば伝説となっているのだ。
吹石は15歳だった1997年に、映画『ときめきメモリアル』で主演を務めているのだが、その主題歌「セピアの夏のフォトグラフ」で歌手デビューもしている。この吹石の「セピアの夏のフォトグラフ」は、安田成美の「風の谷のナウシカ」などと並び称されるほどの“迷曲”として有名。ヒャダインも、吹石の歌を以前ラジオで紹介したことがある。
歌ヘタ女優といえば、音痴過ぎて吹き替えを使われてしまったという『あまちゃん』で薬師丸ひろ子演じた鈴鹿ひろみのエピソードの印象も強いが、吹石の場合、鈴鹿のような“移ろいやすい音程”いわゆる単純な音痴というわけでもない。
鶴瓶も「決して音痴とは言わんよ」と言っているが、YouTubeにあげられた「セピアの夏のフォトグラフ」のコメント欄を見ると、「すごい破壊力」「まるでジャイアンリサイタル」「女ジャイアン」とさんざんな言われようのなかにも、「音程がちがうわけでもない、声量がないわけでもない、でも何かがおかしい」「謎の中毒性」「なんか癖になる」という声も……。
個性的すぎる歌唱力が原因かどうかは定かではないが、吹石のCDはこのデビュー作1枚きりで、その後CDは出していない。
数年前、吹石が『櫻井有吉アブナイ夜会』(TBS)に出演した際に、突如この「セピアの夏のフォトグラフ」が流され、「イヤだ、なにやってんの!」「最悪!」などと悲鳴をあげ、激しく動揺していた。
てっきり吹石本人にとっても歌は忘れたい過去なのかと思っていたのだが、どうやらご本人は今も歌がとっても好きなようなのだ。
しかも結局、吹石の歌は鶴瓶の心を鷲掴みにしたらしく「福山さんの歌よりも高橋優の歌よりも、お前の歌がいまだに一番残ってるわ」と、鶴瓶は翌日電話で吹石に伝えたのだという。それに対する吹石からの返答は「私たちの間では“呪い”って言われてます」。
黒歴史化しているとも言われていた吹石の歌だが、実際のところ本人も自覚し完全にネタ化していたようだ。その上、鶴瓶をして、「福山さんと二人コンビで「そういうネタなの?」と思うくらいに、でき上がってるのよ」と言わしめるほどの完成度で。
ちなみに鶴瓶によると、タモリも吹石が歌う中島みゆきの「糸」が「めっちゃ好き」とのこと。夫の福山はもちろん、鶴瓶、タモリという大御所まで魅了してしまったという、“吹石一恵の「糸」”、ぜひどこかで一度披露していただきたいものである。できれば、福山の伴奏をしたがえて。
(本田コッペ)
最終更新:2017.01.20 12:00