〈アマゾンの荷物によって佐川急便の各営業所の収支が悪くなったばかりか、商業地区における午前中の配達率や時間帯サービス履行率、発送/到着事故発生率などの現場の業務水準を測る指標も悪化した。収支だけでなく、サービスレベルも悪くなったのだから、踏んだり蹴ったりの状態だった〉
つまり、アマゾンの荷物を運ぶことは、佐川急便にデメリットしかもたらさなかったのだ。そして、13年春に佐川急便はアマゾンの配送の大部分から撤退し、運賃の「適正化」、つまり値上げを進めていくこととなる。
佐川急便の撤退後、アマゾンの荷物を運ぶことになったのがヤマト運輸だ。当然、アマゾンはヤマト運輸にとっても大きな負担になっており、同書では「関西地方のヤマト運輸で10年以上働き、宅急便センター長を務める近藤光太郎=仮名」なる人物が、その実情を以下のように告白している。
「これだけ荷物が増えると、現場としては迷惑以外の何物でもないですね。アマゾンのせいで、午前中の配達が一時間後倒しとなりました。一年以上たった今でも、アマゾンからの荷物は正直いってしんどいです」
さらに、荷物増加と運賃の下落は、労働環境にも影響を与える。以下も近藤の証言だ。
「多いときは、月に90時間から100時間ぐらいサービス残業をしていますね」
「何年も働いていると、サービス残業をこなすのは暗黙のルールのようになります。ヤマトは、サービス残業ありきの会社だと割り切っていますから。これを上司や本社にいっても現場の長時間労働が変わることはないだろう、と思っています」
現状ですらこれほどまでに過酷なのに、「Prime Now」なる新たな過剰サービスを猛烈に押し進めて運送会社で働く人たちは耐えられるのか?
ウェブサイト「BLOGOS」のなかで、雇用や労働の問題に詳しい千葉商科大学国際教養学部専任講師の常見陽平氏は、実際に「Prime Now」を利用してみたところ、本当に1時間以内に注文した品が届き、確かに便利なサービスだとしながらも、同時にこんな思いも抱いたと記している。
〈しかし、なんというか、複雑な心境になるサービスだった。ここで働く人が気の毒になった。ここまでの便利って必要なのだろうか。1日我慢するとか、コンビニに行くとかでもよかったのではないだろうか。(中略)なんというか、人に迷惑をかけつつ、ハイテクな買い物ごっこ、おつかいごっこをさせてしまったような気がして、やや胸が傷んだ〉
〈生活者はそこまで望んでいるのか、生活者の過剰な要求で大変な想いをする労働者が増えていないかとか。いろいろ考えたりする。その生活者も労働者なわけで。誰もが生活者であり、多くの場合労働者なのに、互いにいじめ合う連鎖〉
確かに、便利なサービスは消費者にとってありがたい。しかし、過剰に利便性を追求する生活は、逆に我々に負荷をかけているのではないだろうか。電通の過労自殺問題など、「社会」や「労働」に関して見直しが迫られているいま、便利な消費活動の代わりに犠牲となっている人がいないかどうか、改めて考えてみる必要がある。
(編集部)
最終更新:2016.11.17 05:08