影の部分に光をあてる。ただ、それを誠実に為すことが、どれだけ困難か。しかし、それでも阿武野たちはあきらめずにそのための方法を模索し続けている。
「いま、ドキュメンタリーを観るひとは決して多くない。視聴率はとれない。スポンサーが付きにくい。しかも問題は起こりやすい(笑)。他局の人間と話すと『東海テレビのようにはウチはできません』なんてよく聞きますよ。でも、組織や上司や他人のせいにして『できません』と言った瞬間に、もうやれなくなるんです。自分で自分にダメ出ししているんじゃないですか?」
注目を集めている映画公開も、テレビドキュメンタリーが直面する困難を克服するために始めたものだった。
「映画化を始めたのは2011年です。単館を繋ぐ形だから収容できるお客さんの数は、大層なものじゃないけど、実際に観ている人の息遣いを感じられて、何よりスタッフが生き返った。それに、映画なら制作年を打つことで繰り返し放送することもできます。希望しても叶えることのできない全国ネットへのこだわりがなくなったのも、映画で公開しているから、ということが大きかった」
映画を観た人がテレビに帰ってきてくれる、そんな構図もあるのではないかと阿武野は言う。だからDVD化も今のところするつもりはないという。
2017年1月2日には、その映画化第10作にあたる『人生フルーツ』(監督・伏原健之)が公開する。これに先立ち、10月29日(土)から11月18日(金)までの期間、東京・ポレポレ東中野で「東海テレビドキュメンタリーの世界」と題して、劇場初公開を含む全22作品の特集上映が開催される(公式サイト)。
こうした作品は、自主規制や制約、あるいは上司の一言にとらわれ、がんじがらめになっているマスコミ関係者にこそぜひ観てもらいたい。
(インタビュー・構成 編集部)
■特集上映「東海テレビドキュメンタリーの世界」
10月29日(土)〜11月18日(金)まで、東京・ポレポレ東中野にて公開、ほか全国順次。各作品の上映スケジュールなど、詳しくは公式ホームページ(http://tokaidoc.com/)にて。また、書籍『ヤクザと憲法――「暴排条例」は何を守るのか』(東海テレビ取材班/岩波書店)も10月29日に発売。
最終更新:2017.11.24 06:30