この記事では、裕太が幼いころからアトピーやぜんそくもちで母の淳子が苦労していたことにくわえ、裕太が言葉を覚えるのが遅かったことや教室の机のまわりがゴミだらけだったことなどを記述。その流れで、過去のインタビューにおいて淳子が「明らかに発達障害だと言われたこともあった」と明かしていたと強調。〈高畑は息子に絶えず胸騒ぎを覚えていた。発達障害と言われたことも、高畑の脳裏から消えたことはなかったという〉と述べ、そこからは発達障害の説明がつづくのだ。
記事中では、〈裕太容疑者が発達障害であるかどうかはわからず、ましてや発達障害と犯罪が結びつくということは断じてない〉と断ってはいるが、これはほとんどアリバイづくりのようなもので、まるで裕太が発達障害であるがゆえに淳子が周囲の子との違いを気にしすぎて過保護に育ててしまった、と誘導するかのような記事となっている。
だが、「女性セブン」の記事のように安易に犯罪事件と発達障害を結びつけたり、ネット上における「彼は発達障害」と断定する行為は、“発達障害は犯罪者予備軍だ”という偏見を生み出す、とても危険なものだ。
こうした傾向は、2014年に長崎県佐世保市で起こった15歳の少女による同級生殺害事件の影響もあるだろう。この加害者の少女は自閉症スペクトラム障害であったというが、このような事例が発達障害と犯罪を結びつけるきっかけになっているはずだ。
そもそも、発達障害と犯罪に何らかの因果関係はあるのか。今年5月に放送された『NNNドキュメント 障害プラスα〜自閉症スペクトラムと少年事件の間に〜』(日本テレビ)では、浜松医科大学教授で医師の杉山登志郎氏が、不良行為やそのおそれがある児童などが入所する児童自立支援施設で調査を行い、その結果、入所していた102人中75%以上が自閉症スペクトラム障害であることが判明したという。
しかし、杉山医師は、自閉症スペクトラム障害であることが犯罪に結びつくのではけっしてなく、犯罪にいたる可能性が高まるのには「+αの要因」があると解説する。その「+α」とは、過剰な叱責や虐待、学校でのいじめといった「追害体験」だ。実際、杉山医師の調査では、自閉症スペクトラム障害を抱える人が虐待を受けることで非行に走る確率は3.7倍、ネグレクトだと6.3倍にも増えるという。
もちろん、こうした虐待経験と非行の関係は、障害をもつ人だけの話ではない。だが、障害をもっていることで、親から虐待を受けたり、学校でいじめられる可能性もまた高くなるという現実がある。
つまり、「発達障害=犯罪予備軍」などではまったくなく、むしろ虐待やいじめといった追害に目を向けるべきなのだ。自閉症スペクトラム障害に限らず、発達障害を抱える人たちは、同調圧力の強い社会のなかで「ほかの人と同じようにできない」「空気を読めない」などと批判やいじめの対象となりやすく、そんななかで居場所を失い、社会から孤立してしまうことも多い。その問題を、まずは見つめなくてはならないのではないか。