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ラップは「フリースタイル」だけじゃない! 貧困、薬物売買、少年院…ハードな現実を歌った日本語ラップの存在

『花と雨』という作品は、彼がプッシャー(麻薬密売人)として生きた時期への卒業文集のような意味合いをもつアルバムなのだが、SEEDAは雑誌のインタビューで『花と雨』についてこのように語っている。その言葉には、周囲に麻薬が転がっているような環境は、荒れた地域や環境に生きる若者にとって、もはや特別なものでも何でもないということが端的に表れている。

「こういう人間、ラッパーがいるってことを認知してもらいたかったぐらいですかね。都内だと、中学や高校で麻薬が入ってきてレイヴ行ったりクラブで遊ぶ子が多いと思うんですけど、そうやって知らず知らずのうちにネタを売るようになって、最終的にそれがよくないなって気付いて大人になっていく人がたくさんいると思う」(「blast」07年2月号/シンコーミュージック・エンタテインメント)

 このような流れは2010年代になっても変わらない。新自由主義のなか見放された者たちは救済されることなく、今でも虐げられ続けているのだから当たり前だ。12年ごろから急速にリスナーの注目を浴びるようになったKOHHはその代表的な人物。下品な下ネタから「生と死」をめぐる抽象的なテーマなど、彼の歌詞の題材は多岐に渡るが、そのなかでも大きな位置を占めるのが、東京都北区王子の団地のなか、薬物の問題を抱える母親との母子家庭で生まれ育ったという出自をめぐる話だ。

〈皆よりも俺の家は汚くて狭い テレビとかで言ってる「お金よりも愛」 お金持ちにカップラーメンのうまさ分からない〉〈お金持ちの奴をいじめるお前うざいよ あんな親の子供ならこんな子でもしょうがない そんな事を言う馬鹿野郎大嫌い だれが何をどうしたってどうしようもない母子家庭 同情するなら金をくれ 嘘じゃない本気だって〉(ANARCHY feat. KOHH「MOON CHILD」)
〈ママに吸わされた初めてのマリファナ あの時驚いたけど笑う今なら 合法でも非合法でも俺の周りは薬物を使う人が多い それだけの話だ〉(「Drugs」)

 今後も彼らのようなラッパーは続々と登場し続けるだろう。それは、先に挙げた「ラップミュージックは黒人社会におけるCNNである」の言葉通り、ラップとは身の回りの状況を生々しく描写するものだからだ。もちろん、ラップの魅力は多種多様なもので、言葉遊びものにも、ラブソングやパーティーラップにも名作はたくさんある。だが、『フリースタイルダンジョン』でラップの魅力に目覚めた人たちにも、ANARCHYやKOHHなど、凄惨な現実を自らの傷に塩を塗るかのように歌う人たちがいることをぜひ知ってほしい。
(新田 樹)

最終更新:2018.10.18 04:03

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