このICIJの調査報道は「オフショアリークス」と呼ばれるもの。オフショア(offshore)とは、金融用語で外国人(外国企業)を租税優遇している国や地域を指す。ICIJはこの「オフショアリークス」で、タックスヘイブンに存在する法人や役員・株主らの名前、住所を公開、データベース化したのだが、HP上にあるそのデータを検索すると、「DENTSU INC」という文字が出てくる。
この「DENTSU INC」というのは電通の英語表記とまったく同じ、また、そこに記載されている「1-8-1 Higashi-shinbashi Minato-Ku, Tokyo 105-7001 JAPAN」という住所も電通の東京本社の所在地と完全に一致する。
しかも、検証を進めていくと、「DENTSU INC」がどうタックスヘイブンに関わっていたのか、具体的な動きも浮かび上がってきた。
この「オフショアリークス」には「SUHOM MOBILE INFORMATION CO., LIMITED」なる有限会社がリストアップされている。データでは“Offshore Entity”、つまり、タックスヘイブン区域の会社と表記されており、実際、この会社名をGoogleで検索すると、タックスヘイブンとして有名なイギリス領ケイマン諸島を所在地と表記している企業認可証らしき画像データも出てくる。
これだけでも、租税回避行為のためのダミー会社のにおいがプンプンするが、この「SUHOM MOBILE」という会社の“Director”の項目に、なんと「DENTSU INC」に所属し、同社を登録住所にしている人物の名前が記載されていたのだ。
この人物の名前は、N・M(データ上は実名)。電通に該当する人物がいないかチェックしてみると、電通が運営するウェブサイト「電通報」に、「北京電通 デジタルビジネス部 中国全国統括マネージャー」という肩書きをもつ同姓同名の人物が存在していた。
さらに、電通は、このタックスヘイブンに設立された「SUHOM MOBILE」社に、ファンドを通じて出資までしていた。「SUHOM MOBILE」社のデータにある“Shareholder”(株主)という項目には、「Dentsu Asia Fund I, L.P.」なる、「電通」の名称が冠せられたファンドが出てくるのだ。そして、この「Dentsu Asia Fund I, L.P.」の所在地も、やはりケイマン諸島だった。
電通が公表している子会社や関連会社のなかに、「Dentsu Asia Fund I, L.P.」は確認できないが、ファンド(投資事業組合)や社員につくらせた会社なら、公表されていない可能性は十分ある。
つまり、こういうことではないのか。電通は、北京電通の幹部を取締役にして、タックスヘイブンで有名なケイマン諸島でダミー会社を設立し、同じくケイマン諸島に設立したファンドからお金を流し、租税回避行為を行っていた──。