『連載終了!』巻末には、巻来功士氏と、「ジャンプ」5代目編集長の堀江信彦氏(先ほどのホリエ氏はこの人のこと)との対談が収録されているが、そこで堀江氏はこのように語っている。
堀江「今思えば、巻来君は縦糸の人だったんだ」
巻来「縦糸?ですか」
堀江「ストーリーラインね。それで漫画にはもう一つ、横糸が必要なんだ。こっちは演出やキャラクター作り。巻来君は縦糸が上手かったんだね。ところが編集者が手助けできる部分も縦糸なんだ。たとえば僕が原作を書くようになったのも、原(哲夫)君が縦糸を欲しかったからなんだ。原君は完璧に横糸の人だから、縦糸が描けない。その分を自分が手伝った。
(中略)
逆に巻来君は明らかに縦糸の人。だから編集者と話していても退屈なんだよ、そこは自分がやれちゃうから。巻来君に必要だったのは横糸情報。「この時、こういう顔じゃなくてさ」とか「女の子、こんなキャラにしてさ」「仕草がこうでさ」とか。そういう事を話せる編集者がもっといたらよかったんだけど。だから編集者のほうも巻来君に対して「自分は必要じゃない」って感じちゃったんだね。「巻来君は自分でやれる人だから」って。それで編集者が何人も変わって、巻来君も孤独をかこってしまった。
(中略)
自分も当時的確なアドバイスがしてあげられなかったけど、今担当だったら横糸情報を足すようにしたと思う。巻来君に必要だったのは、演出家だったんだ」
巻来氏がことあるごとに「巻来君は一人で物語がつくれるから」といったことを言われていたのは、こういうことだったのだ。そんな編集者の助けのいらない作家であったばっかりに、編集者と漫画家の理想の関係をつくることができなかったのだが、もしも当時、「横糸」の情報を付け足してあげられる編集者がいれば、巻来氏も『北斗の拳』や『ジョジョの奇妙な冒険』のような作品をものにできたのかもしれない。
現実世界の編集者と漫画家には、こんな関係もある。そんなことを思い浮かべながら『重版出来!』を観たら、ドラマがより味わい深いものになるのではないだろうか。
(新田 樹)
最終更新:2018.10.18 04:41