しかし、実際に「週刊少年ジャンプ」で連載を始めた巻来氏が、原哲夫とホリエ氏のように理想的な漫画家と編集者の関係を構築することはできなかった……。
巻来氏の担当編集は前述のホリエ氏が務めることになっていたのだが、『機械戦士ギルファー』の第2回目の原稿を入稿したとき、突然「巻来君は自分でストーリー考えて描けるから信頼しての事なんだけど…担当変わるから」と告げられる。そして、後任としてやってきたマツイ氏は、出会い頭になんとこう言い放ったという。
「巻来君じつはオレ…ロボット漫画なんて正直嫌いなんだよ!」
「…でもオレは嫌いな漫画を担当した方が当たる確立が高いんだ!! だから『ギルファー』も大丈夫さ!!」
ロボット漫画を連載している作家に対して、なんという発言……。しかし、口は悪いマツイ氏だったが、映画好き、特に、ATG映画やアメリカンニューシネマなど暗く硬質な映画を好むという点で巻来氏とは馬が合い、その結果、両親を殺され、自分も火をつけて焼かれた少女が、サイボーグとなって甦り復讐を企てるという、「友情・努力・勝利」の「ジャンプ」としては異例の『メタルK』が生まれることとなった。
第一印象こそ最悪だったが、巻来氏もマツイ氏との間で、原哲夫&ホリエ氏コンビのような関係を築くことができたかに見えた。しかし、現実はそう甘くはない。『メタルK』は連載2回目からページを巻末に追いやられてしまうのだが、読者アンケートの結果を反映させたにしても、あまりにも早すぎる冷遇ぶりを巻来氏が問いつめると、マツイ氏はこう答えたのだった。
「どうやら最初から決めていたみたいだね」
「どうやらこの漫画を…いやもしかしたらオレの担当の漫画を嫌っている人が編集部内にいるのかもしれないね」
これが『重版出来!』のストーリーであれば、紆余曲折の末、人気連載漫画として見事に花開くといった結末になるはずだが、現実はそうはいかない。
いつ連載が終わるかも分からない苦境に立たされた二人は、本来であればもっと先に登場させるはずだったキャラクターを第5話の時点で出すなどテコ入れをはかった。その結果人気も上がり、編集部側もすんなり終わらせることができない状況にまでもっていくことに成功する。しかし、その努力もむなしく、結局『メタルK』はわずか10話で終了。マツイ氏とも、理想の漫画家と編集者との関係を築きあげることはできなかった。