現在、介護ビジネスは介護保険だけでも10兆円という巨大規模となり、今後も高齢化が進むことで成長が期待される分野だ。だからこそ、そこには様々な弊害が存在するという。
「介護ビジネスには安易な事業者の参入も目立ち、昨今は法令順守の姿勢や介護の知識がほとんどない例まで見受けられる」
「現状は利益優先の事業者が跋扈している」
具体的な事例を見ると、そこには虐待だけでなく不正の数々や入居者への人権侵害という絶望としかいいようのない現状があった。
まずは虐待の温床となる入居者の「囲い込み」と不正な「手抜き介護」だ。
三重県のサービス付き高齢者向け住宅に住む佳子さん(85歳)は、入居と同時にそれまでのホームヘルパーから高齢者向け住宅担当者が強く勧める自社ヘルパーへと変更を余儀なくされた。この住宅は敷金6万円、月額は食事込みで9万円とかなりの安価がウリだった(全国相場は月14万円ほど)。
しかし家族が面会に行った際、ヘルパーの不審な行動を目撃する。
「その日はケアプラン上では一時間のサービスが提供されることになっていたのですが、わずか20分ほどでヘルパーが部屋から引き揚げるところに出くわしたのです。ほかにも着替えや洗顔などがされていない様子が見受けられた」
決められたサービスを提供されていない疑いを持った家族は、以前のヘルパーへと再変更したという。
「ところが、これが思わぬ事態に発展していく。
『お母さま(佳子さん)の行動に落ち着きがなくなって、その対応に職員は追われています。警察に何度も電話をかけようとするので困っています。なんとかしてください』
サービス付き高齢者向け住宅の職員は、まるで非難するかのような口調で家族に訴えてきたという」
これは自分たちのサービスを使わない露骨な報復行動であり、職員は家族が頼りにしているケアマネージやーの解任や、ホームからの撤去さえも口にしたという。母親を人質に取られた形の家族にすれば口をつぐみそれに従うしかなかった。今回の事例だけではなく弱みを握られた形の家族たちは、事業者の言うがままになるしかないケースが多いようだ。
もちろん事業者が入居者を囲い込むのは“利益”のためだ。施設によっては併設または系列サービス利用を入居条件としているところさえあるが、しかしこれはサービスや介護の面でも大きな弊害を生むという。
「メディアで優良企業として経営者が紹介されたこともある関東のサービス付き高齢者向け住宅では、朝から夕方まで入居者を併設のデイサービスに送り込み、住居棟に鍵をかけて自由に行き来できないよう管理する。外出も家族による付き添い以外は認めず、訪問介護を使うこともできない。介護サービスの自由な選択や利用が妨げられるだけでなく。“籠の鳥”のような生活を強いられるケースもあるのだ」