有料老人ホームは入居時の一時金として通常数百万円かかることもあり、加えて月々20万円の入居費用だから、かなり敷居が高いものだ。結局ノボルさんは茨城県つくば市の月12万円のホームに入居したが、その後肺炎に罹って入院し「胃ろう」に。つくば市のホームでは「胃ろう」患者を受け入れる態勢がなく、入院から半年経っても次の行き先が見つかっていないという。
だがホームに入れただけマシかもしれない。そう思わせるさらに悲惨な現場も存在する。それが「お泊まりデイ」と呼ばれる施設だ。定員10人までの民家などでの小規模デイサービス。そこでは日中はデイサービスを行うが、高齢者たちは帰宅せず、そのまま「お泊まり」するのだ。
「老人たちは分厚いふとんにくるまり、頭だけを出して目をつぶっている。そこには、男女十人が同じ部屋に雑魚寝状態で横になっていた」
狭い空間にすし詰め状態での団体生活。1人がノロウイルスに罹ると隔離する部屋もなく、他入居者や職員まで感染するという劣悪な環境だ。夜間の職員は1人だけ。そんな環境で長期に渡り泊まり続ける高齢者もいるという。なぜなのか。料金の安さに加え、行き場を失った高齢者が数多く存在するからだ。
「昼間のデイサービスは儲かりますが、今はそれだけでは客を集められません。お泊まりには、昼の利用者を確保するための“付録”としての効果があるんです。安い特養はいつ入居できるかわからないし、民間の有料老人ホームに親を預けることができるのは、金銭的に余裕のある家庭だけです」
お泊まりデイは1カ月まるまる泊まっても10万円ほどの負担で済み、行き場を失った高齢者には救世主だという。
「病院から退院を求められても、特養などの引き取り先も不十分だし、行き場のない高齢者にとって最後の頼みの綱がお泊まりデイなんです。高齢者を施設に預けっぱなしで面会に来ない親族も多いと感じます」
こうした施設はフランチャイズ化され激増している。しかし本部は加盟料さえもらえば、あとはどうなっても責任をとらないという無責任な事業者もあるという。しかしそれでも行き場のない高齢者、そして介護する親族にとっては、なくてはならない存在となってしまっているのが現状のようだ。
ただ、こうした「お泊まりデイ」にしても、公的な特養や有料老人ホームでも共通する問題は数多い。