『ルポ 老人地獄』(朝日新聞経済部/文春新書)
格差、下流……これまで本サイトでは日本を覆う悲惨なまでの貧困の実情を繰り返しお伝えしてきた。貧困の連鎖でホームレス生活を余儀なくされた子どもたち、風俗や出会い系サイトで生計を立てる女性やシングルマザー、奨学金返済のためウリ専で身体を売る男子学生にソープで働く女子学生。
だが、貧困は何も現役世代だけのものではない。仕事をリタイヤし悠々自適の生活を送るはずだった高齢者たちには、さらなる困難が待ち受けている。
「多少の蓄えや年金があるから大丈夫」
「世代間格差」「老人は勝ち逃げ」などとうそぶき高齢者をうらやむ人も多いが、しかしそれは大きな間違いだ。
老人を待ち受ける数々の問題を取材した『ルポ 老人地獄』(朝日新聞経済部/文春新書)は、日本の高齢者を巡る問題は貧困層だけの問題ではない、と断じている。それは「介護や医療が必要となった時には、よほどのお金が出せなければ快適な生活が送れなくなっている」からだ。
本書では月30万円もの年金を受給していた共に80歳の夫婦(品川区在住のノボルさん、スズさん)のケースが紹介されている。2人は共働きだったため夫が18万円、妻が12万円、合計30万円の年金を受け取っていた。高齢者夫婦としては悠々自適で貧困とは無縁なはずだった。だがそれは一瞬で崩れてしまう。
「ノボルさんが高熱を出してから状況は一変する。ノボルさんは歩くのが困難になり、認知症も進んだ」
自宅介護は困難なため公的な介護施設である特別養護老人ホームを探した。特養は入居費が10万円ほどで、年金でも十分賄える。しかし、区内施設は入居待ちが600人もいるなど断念するしかなかった。次は民間の有料老人ホームだが、問題はその金額の高額さだった。それは月30万円の収入がある夫妻でさえ、手が出ないものだ。
「『入居一時金千二百万円 月額利用料二十一万円』(品川区のホーム)、「一時金不要 月額利用料二十八万円(千葉市のホーム)……。(略)それだけではない。『ほかにも月に五万円は見込んだほうがいい』と不動産業者に告げられた。介護サービスは介護保険から九割出るが、自己負担が一割ある。訪問診療を受ければ医療費は七十五歳以上も自己負担が原則一割ある。さらに散髪代やおむつ代などもかかるというのだ」