「(車椅子がないと外出できない菊池さんの)外出のチャンスを得られる一縷の望みは介護保険のサービスだ。しかしそれも現実には難しかった。食事作りやトイレ掃除、洗濯などで月々に利用できるサービスを増やすことなど─むろん、お金を払えば可能だが─不可能なことだった」
従って、年金を下ろす際の外出費用は全額自己負担の2千円が必要となる。
さらにその後、菊池さんは体調悪化で入院、要介護3となるが、これでさらに介護費用の負担も増えるのだ。数万円の介護費用は安いという認識もあるだろう。しかし10万円ほどの年金しか収入がなく、貯金を切り崩して老後を送る高齢者にとって、それは多大な負担なことが分かる。
本書に登場する高齢者たちは皆真面目に働き、貯金もあった普通の人々だ。「元気なうちはどうにかなる」。そう考え、人様の迷惑にならないよう必死でがんばる人々でもある。しかし配偶者の死亡、病気によって、その生活は簡単に破綻する。例えば年金支給時に2千万円もの貯金があっても、一旦病気になれば生活は成り立たないという調査結果さえある。しかも、老後破綻は80代という高齢者の問題ではない。働きたくても働けない、それどころか深刻な病気なのに病院に行けないという60代男性のケースがそれだ。
元タクシー運転手だった山田憲吾さんは、現在12万円の年金暮らしだ。家賃や諸経費を除くと手元に3万円しか残らないが、しかし男性は持病があった。「心臓に持病があり、また足腰が慢性の関節炎で整形外科に通う必要がある山田さんは月それぞれ1度、通院が欠かせない」という。
生活費の残り3万円をこれで補うが、60代の山田さんの医療費負担は3割。これだけでもギリギリだが、加えて山田さんは視野や視力が次第に低下する深刻な難病を患っていた。専門医は自宅からも遠い。
「心臓や足腰に負担がかかるため、ひとりで電車やバスを乗り継いで行く事には不安がある。タクシーを利用すれば、往復で2万円程度かかる」
そのため、行きたくても病院にさえ行けないのだ。
同様に35年間働いた会社を心不全のため一方的に解雇された60代女性は、会社が手続きを怠っていたため未年金で現在の収入はない。300万円ほどの貯金で食いつないでいるが、生活費や医療費で、その貯金が底をつくのは時間の問題だ。60代でも、いや50代でもケガや病気などで職を失えば、一気に「老後破産」は目の前に迫って来る。